日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム2 神経生理学的アプローチによる心理学研究 (日本生理心理学会)

2020年11月26日(木) 08:10 〜 09:40 第8会場 (2F K)

座長:勝二 博亮(茨城大学教育学部)、軍司 敦子(横浜国立大学教育学部)

[CSP2-5] 睡眠心理学研究による意識へのアプローチ

高原円 (福島大学 共生システム理工学類)

 ヒトの意識(consciousness)に対する科学的研究はさまざまな手法により活発に行われているが,睡眠中のヒトの脳活動を調べる生理心理学的アプローチもその一つである。Tononiらのグループは「夢」を睡眠中の意識の一形態として捉え,高密度脳波計で計測しながら連続覚醒法(serial awakening paradigm)を用いることにより,夜間睡眠から覚醒させた被験者が夢を報告する場合としない場合の違いを脳活動の観点から調べている(Siclari et al., Nature Neuroscience, 2017など)。こうした夜間の夢報告に対する神経科学的アプローチについてまず紹介する。彼らの意識に関する理論によれば,NREM睡眠の徐波が連続的に出現しているようなときには,覚醒させても夢報告も殆どなく,ほぼ「意識のない」状態であることが想定されている。これに対して,睡眠段階2やREM睡眠において夢報告も数多くなるのは,徐波がほとんど出現しないためと解釈できるだろう。
 睡眠中の脳活動と夢との関連については,明晰夢との関連も報告されている(Baird et al., 2019など)。明晰夢とは,睡眠中の夢見の最中に「これは夢である」と気づき,より発展的には思い通りに夢をコントロールすることができる状態を指す(夢の中で空を思い通りに飛ぶなど)。この状態にはREM睡眠中の前頭前野における脳活動の増加が関連している(Voss et al., Nature Neuroscience, 2014)。近年では,瞑想と睡眠中の脳活動や明晰夢との関連も指摘されており(Dentico et al. 2016, 2018; Baird et al. 2019),脳の前頭部と側頭頭頂部の機能的なつながりが関与している可能性が示されている。更なる実証の積み重ねが期待される。
 最後に睡眠中に事象関連電位(event related potential, ERP)を用いた手法を紹介する。音刺激の周波数変化の検出に対応する脳反応を調べると,一般に意識や感覚がないと思われている睡眠中にも脳反応の変化を記録できる。もちろん,睡眠段階(深度)により差が生じるが,単純な識別や課題であれば最も深い睡眠段階(N3)でも可能であることが示されている。ただし,これらの睡眠中に観察される脳反応と意識との関連は不明である。そこで我々は音刺激を用い,睡眠中のヒトに音が聞こえる過程と夢報告(意識状態)との関連を脳波から検討するため,連続覚醒法による実験を行った。結果,夢の有無に関わらず,睡眠中でも音刺激が「聞こえた」と報告するときと「聞こえなかった」と報告するときにはERPのN1成分に違いが生じた。こうした違いと意識の有無との関連については今後更なる検討が必要である。