[CSP20-1] 電気生理学的手法による痛みの評価
本年、40年以上の時を経て痛みの定義が改訂された。内容は「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」とされ、相変わらず直感的にイメージしにくいものである。しかし、このように表現せざるをえないことが痛みの難しさそのものを示しているとも言えるだろう。ただ、定義そのもの以上に付記された6つの文章の重要性は特筆すべきであり、個人的な体験であること、痛みと侵害受容は異なる現象であることなど痛みに関わる人々が十分に理解しておくべき内容が含まれている。さて、このように主観的な体験とされる痛みはそもそも完全な形で客観性を得ることは不可能であり、これは何も痛みに限らず全ての感覚について当てはまる。しかし、外から観察できる形で痛みを定量化したいという切実な願いは人類史上続いてきたものであり、電気生理学的手法はその中でも重要な役割を果たしてきた。これらの方法論が抱える問題は、A. 入力系(適切かつ選択的な「痛み」の入力は可能か?)、B. 修飾機構(Spatial/Temporal summation、Conditioned pain modulation、 Central/Peripheral sensitizationなど痛覚情報処理プロセスに影響する要因の評価はできるか?)C. 出力系(EMG、microneurography、EEG、MEG、fMRI、PETや瞳孔反応など、使われている方法の検出力に問題はないか?)などに分類することができる。入力系では神経線維の選択性や感覚強度の問題が大きいが、Virtual Realityなどを用いると直接痛みを誘発しないような痛み刺激というものも可能であり、痛みのどのような側面(感覚、情動、認知)を観察しようとしているかという目的によって選択は変わってくる。例を挙げると、Intraepidermal electrical stimulation(IEES)はAδ、C線維の選択的刺激に長けているが、最近の報告では刺激時のAmygdalaの反応は乏しく、また自律神経応答などは起きにくいことが示されており、比較的情動反応の起こりにくい感覚面の評価に優れた方法と言えるかもしれない。また逆にネガティブな画像やThermal grill illusion刺激では感覚刺激よりも情動面への駆動力が大きいと思われる。このような方法を組み合わせることにより、はじめて「痛み」を外部から多面的、立体的に見ることが可能になると思われ、痛みのより正確な評価につながることが期待される。本シンポジウムでは実際に様々な手法を用いた測定例を示しながら、臨床に使用する際の具体的な問題点を探ってみたい。