[CSP20-2] Quantitative Sensory testing(QST)による痛みの客観的評価と臨床活用への挑戦
「痛みは常に主観的」であり、その客観的評価が難しいのは周知の事実である。日常診療において慢性痛患者は、病名や局所の画像変化が同等であっても痛みの病態が全く異なることをしばしば経験する。特に、難治性の患者では、1:痛みに関わる感覚神経の機能的な変化、2:精神心理的な要因、のいずれか、または両者が相まって存在するパターンが多い。このため、局所の病態に加えて1、2の両方を評価するのが妥当であるが、実臨床では2の存在がクローズアップされがちであり、1の病態はあまり意識されていないことが多い。この原因として、ヒトにおいて1を客観的に評価する良い「はかり」が少ないことが挙げられる。定量的感覚検査(quantitative sensory testing: QST)は「痛みの伝達や制御に関わる神経機能をモニタリングできる検査」であり、疼痛感作(pain sensitization)というキーワードとともに、1の病態を評価する「はかり」として発展してきた。具体的には、標準化された刺激に対する反応性をみるStatic QSTと、痛みの加重効果や調節機能をみるDynamic QSTがあり、これらを組み合わせたプロトコールが慢性痛の病態評価に有用である。QSTによって検出された神経機能変化が、種々の慢性痛患者の臨床的な痛みの病態や治療反応性と関係することは既に明らかであるが、実臨床では全く一般化していない。この最大の理由は、研究室レベルで行うQSTに使用するツールが特殊で、高額で、さらに測定に時間を要するためと考えられる。演者らはこの問題を解決するために、クリニックやベッドサイドで使用可能な簡易QSTツール(QuantiPainTM)を開発し、現在その基礎的データを蓄積中である。本シンポジウムでは、運動器疼痛疾患におけるQSTの現状と課題について触れ、QuantiPainTMを用いた神経機能評価の実際と臨床応用に向けた今後の展望についても言及したい。