日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム21 精神疾患に対する手法・治療のあれこれ (日本薬物脳波学会)

2020年11月28日(土) 08:30 〜 10:00 第5会場 (1F C-2)

座長:木下 利彦(関西医科大学 精神神経科学教室)、吉村 匡史(関西医科大学 精神神経科学教室)

[CSP21-3] 修正型電気けいれん療法を用いた精神疾患の治療

安田和幸 (山梨大学 医学部 精神神経医学講座)

 電気けいれん療法(Electroconvulsive Therapy:ECT)は頭皮上に設置したふたつの電極から制御された電流を流すことにより、強直間代性けいれん発作を誘発する治療法である。精神疾患に対するけいれん療法の歴史は、1950年代のクロルプロマジンの開発よりも古くから始まっており、1930年代にけいれん惹起物質を用いた方法が開発されていた。初めてのECTは1938年にイタリアのCerlettiらによって行われ、ひとりの統合失調症患者を回復させたことが発表された。その後、患者の不安・恐怖が強いこと、脊椎などの骨折が多いことから、1950年代には酸素投与下で静脈麻酔薬と筋弛緩薬を使用する修正法として、修正型電気けいれん療法(modified Electroconvulsive Therapy:mECT)が発表され、現在でも若干の改変はあるもののこの方法が受け継がれて実施されてきた。
 現在、国内外においてmECTは精神疾患の治療法として一定の地位を確保している。主に適応とされるのはうつ病(双極性、単極性のいずれも含む)やカタトニアである。米国精神医学会における診断基準の最新版であるDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition.)では、これまで統合失調症のサブタイプのひとつであるとされてきた緊張病(カタトニア)を、様々な精神疾患や医学的疾患に関連して発生する症候群として定義づけている。このカタトニアについては、ほとんどの国におけるECTガイドラインの中でECTを積極的に選択すべき適応対象と考えられている。また多くのガイドラインでは、うつ病の他に、躁病、統合失調症も適応疾患であると考えられており、特に治療抵抗性統合失調症においてはクロザピン抵抗症例も含めて効果が期待される。
 近年注目されているトピックとして、ECT特有の有害事象と考えられてきた健忘や行動障害を伴うせん妄などの認知機能障害が挙げられる。ECTにおいて不可避とも考えられてきた認知機能障害であるが、電極配置・刺激パラメータ調整法の議論が進み、右片側性(Right unilateral:RUL)ECTや、超短パルス波(ultra-brief:UB)RUL ECTなどの手法により、認知機能障害を低減できることが解明されつつある。これにより従来のECTで払拭しきれなかったスティグマの克服という課題にも向き合うことができるようになった。
 本発表では、演者が所属する施設におけるmECTの活動実績をまとめ、わが国全体のECT動向を加えて発表する。現在行っている脳波モニタリング解析の研究についても披露できる範囲で発表し、精神疾患の治療の神経生理学的メカニズムに関わるディスカッションの話題としたいと考えている。