[CSP24-4] 経穴刺激の脊髄・脳機能 -パーキンソン病患者の治療効果-
パーキンソン病(Parkinson’s disease:以下PD)は振戦、筋強剛、寡動、歩行障害などの運動症状だけでなく、便秘や起立性低血圧などの自律神経症状、疼痛、うつ症状、睡眠障害などの多彩な非運動症状も出現する。PDに対する治療は、L-Dopa を主体とした薬物治療が行われるが、根治療法はなく、長い治療経過の中で、投薬量の増加や副作用症状の発現がみとめられることがある。このため、患者の中には、薬物治療以外に有効な治療法を求めて、わが国の伝統医療の一つである鍼灸治療を受療することがある。American Academy of Neurologyは、PD治療ガイドラインの中で鍼治療は補完医療として最もよく用いられる治療法のひとつとして紹介しており、本邦においてはPD患者の1-2割が鍼治療を受療していると報告されている。PDに対する鍼治療の効果として、振戦や、筋強剛、歩行機能に対する効果が比較的多く報告されている。また、筋骨格系の痛み、便秘や睡眠障害、うつ症状などの非運動症状に対する効果も報告され、PD患者の主訴や随伴症状に応じて鍼治療を併用することで、運動機能やQOLの向上に寄与する可能性が考えられる。演者らは、臨床症状に対する鍼治療の治効機序を探索するため、本疾患における脊髄や脳における鍼治療の効果を、筋電図による長潜時反射(Long Latency Reflex; LLR)やF波を指標として研究した結果として、鍼治療によりF波の出現率の低下や、LLRの振幅が低下した症例ではPD症状や運動症状が改善する傾向が示された。このことより、鍼治療が、脊髄前角細胞の興奮性を低下させ、大脳基底核から大脳皮質や脳幹への過剰出力に対する抑制効果をもたらす可能性があることが考えられた。今回の報告では、パーキンソン病の臨床症状に対する自験例や、これまで示唆されている本疾患に対する鍼治療の機序について概説する。