日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム5 脳内運動リハーサルを臨床応用する神経生理学的意義 (日本基礎理学療法学会)

2020年11月26日(木) 16:30 〜 18:00 第5会場 (1F C-2)

座長:鈴木 俊明(関西医療大学大学院 保健医療学研究科)、金子 文成(慶應義塾大学 医学部 リハビリテーション医学教室)

[CSP5-4] 脳内運動イメージと末梢感覚入力による神経可塑性の誘導

山口智史 (順天堂大学 保健医療学部 理学療法学科)

神経可塑性は運動学習や機能回復の重要な神経基盤である.したがって,中枢神経疾患のリハビリテーションにおいては,目的とした中枢神経系において神経可塑性を積極的に誘導していくことが重要である.しかし,中枢神経疾患後の運動麻痺により随意運動が困難な患者では,目的とした中枢神経系を賦活できず,神経可塑性を誘導することが困難になる.
実際の運動を伴わない脳内での運動イメージは,随意運動に類似した神経活動を誘導することができ,中枢神経疾患のリハビリテーションとして期待されている.一方で,随意運動と比べて運動イメージの神経活動は低く,さらに末梢からの感覚入力が欠如していることから,神経可塑性の誘導や運動機能回復には限界があると考えられる(Kaneko et al., J NeuroEngineering Rehabil 2014,Guerra et al., J Neurol Phys Ther 2017).
この限界に対して,我々は末梢神経への電気刺激による感覚入力に着目し,運動イメージに電気刺激を併用することで,運動イメージ単独よりも神経可塑性の誘導と運動機能改善を促進できると考え,健常者および脳卒中患者を対象とした研究を遂行してきた.
まず健常者を対象に,運動イメージ中に末梢神経への電気刺激を与えたときの皮質脊髄路の興奮性を検討した.その結果,運動イメージに電気刺激を併せることで,運動イメージ単独と比較し,より興奮性が高まることを明らかにした(Yamaguchi et al., PLOSONE 2012).この興奮性変化は,課題のイメージの強さや電気刺激の強度により変化が増強した(Yamaguchi et al. PLOSONE 2012,Saito et al., Exp Brain Res, 2013).
さらに,運動イメージと電気刺激の併用が,皮質脊髄路の興奮性変化を誘導するために必要な介入時間を検討した.その結果,介入後20分の時点で興奮性変化が有意に増大し,その効果の個人差には,介入前の運動イメージの鮮明度が関与することを明らかにした(Yasui et al., Exp Brain Res 2019).さらに,運動イメージと電気刺激を20分間行うことで,皮質脊髄路および脊髄相反性抑制の神経可塑性が誘導され,その効果が介入後10分まで持続することを明らかにした(Takahashi et al., Front Neurosci, 2019).
これらの知見を臨床応用し,慢性期脳卒中の重度片麻痺患者において,運動イメージと電気刺激を併用したトレーニングを10日間実施した.その結果,麻痺側上肢の運動機能や使用頻度,筋緊張の改善を認めた.さらに神経生理学的な変化として,脊髄相反性抑制の改善を認めた(Okuyama et al., Ther Adv Neurol Disord,2018).
これらの知見から脳内の運動イメージと末梢神経への電気刺激による感覚入力を併せることで,神経可塑性を誘導し,脳卒中後の運動機能の回復を促進できる可能性がある.今後,多施設間研究などにより機能回復の効果と神経生理学的な効果機序のさらなる検証が必要である.