日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム6 姿勢制御・運動協調とニューロモデュレーション (日本基礎理学療法学会)

2020年11月26日(木) 14:40 〜 16:10 第8会場 (2F K)

座長:平岡 浩一(大阪府立大学 地域保健学域 総合リハビリテーション学類)、大西 秀明(新潟医療福祉大学)

[CSP6-1] 歩行開始時の振り出し側選択に寄与する皮質領野

平岡浩一 (大阪府立大学 地域保健学域 総合リハビリテーション学類)

 運動時における使用肢の選択は近年注目されている意思決定プロセスのひとつである。標的リーチ時の上肢選択には左後頭頂領野(左PPC)が関与することが経頭蓋磁気刺激(TMS)による実験で確認されている(Oliveira et al. 2010)。この知見をヒントに、我々は片側聴覚刺激による手選択確率の変化を観察し、左単耳聴覚入力により標的リーチ時の左上肢選択確率増加を確認した(Tani et al. 2017)。上肢で観察されるこのような聴覚単耳入力の効果は歩行開始時にも観察できる。どちらの耳に開始合図が入力されるか予想できない条件下で歩行開始合図を左耳に入力すると、左下肢振り出し確率が増加する(Hiraoka et al. 2015)。パーキンソン病患者の歩行開始時の振り出し側選択プロセスにも興味深い現象が観察できる。
 健常高齢者やすくみ足のないパーキンソン病患者が複数の歩行開始試行を行うと、ほぼ全試行で振り出し選好側から振り出すが、多くのすくみ足のあるパーキンソン病患者では試行ごとに振り出し側が変動する(Okada et al. 2011)。この知見は、歩行開始時下肢振り出し側選択プロセスに基底核や皮質領野が寄与することを示唆する。
 そこでわれわれは、歩行開始時の振り出し側下肢選択に上肢リーチ時と同様に左PPCが寄与するという仮説を検証した(Hiraoka et al. 2020)。振り出し側が選好側に偏る問題を解決するため、非選好振り出し側を後方に引いた位置から歩行開始させることにより、振り出し側が左右均等になるようにした。被験者は開始合図と同時に歩行を開始した。TMS条件で開始合図と同時にF3, F4, P3(左PPC),あるいはP4(右PPC)にTMSした。非TMS条件では、コイルをF3, F4, P3,あるいはP4に置いたがTMSは実施しなかった。その結果、P3にTMSした条件において歩行開始時の右側振り出し確率が減少した。これは歩行開始における振り出し側選択に左PPCが関与することを示唆する。
 左下肢を振り出して歩行開始する場合の予測的姿勢制御(APA)の潜時は、P3あるいはP4へのTMSで有意に短縮した。右下肢から歩行開始する時にはF4あるいはP4へのTMSでAPA潜時が有意に短縮した。APAと下肢振り出しはプロセスを共有していると考えられている(Mille et al. 2014)。したがって歩行開始時における左PPCの振り出し側選択への関与は、左下肢振り出しプログラムへの影響を介して行われると推測された。この結果をaccumulation model(Ratcliff et al. 2008)に基づいて説明すると、左PPCは左下肢プログラムに関与することによって選択オッズを調整していると考えることができる。