[CSP6-5] 中枢性運動麻痺患者に対する末梢神経電気刺激併用運動イメージ訓練
脳卒中等の後遺症としての中枢性運動麻痺に対し、運動イメージ訓練(メンタルプラクティス)は運動機能改善効果があることが知られているが、その効果量が十分でないため、より治療効果を高める取り組みがなされている。Okuyamaらは、脳卒中後の重度運動麻痺患者において、手指伸展の運動イメージに合わせて、橈骨神経に対する電気刺激を与える手法の効果を報告している(Okuyama et al, 2018)。これは、3秒間の安静の後に行う3秒間の手指伸展運動イメージに合わせて、10 Hzの運動閾値レベルの末梢神経刺激を橈骨神経に与える手法であり、このセットを1日150トライアル、10日間行っている。この治療と作業療法により、一般的に改善が難しいことが知られている慢性期の患者10名において、Fugl Meyer assessment上肢項目が平均5.5点上昇した。また、橈側手根屈筋H反射を用いた条件-試験刺激法にて評価された相反性抑制が介入前後で増強されていた。この、末梢神経電気刺激併用運動イメージの手法の原理はPaired Associative Stimulationと類似のものであると考えられる。末梢神経電気刺激と一次感覚運動野へのTMSを同期させた対刺激の繰り返しが脳可塑性を誘導するように、運動イメージと末梢神経電気刺激のカップリングでも同様の機序を有している可能性が高い。また、同様に、実際の随意運動と末梢神経電気刺激による運動機能修飾効果も報告されており(Takahashi et al, 2018)、随意運動が不能例では運動イメージを、随意運動可能例では実際の運動と電気刺激を組み合わせるという戦略も考えられるだろう。また、これらの手法が、相反性抑制を修飾した点も興味深い。相反性抑制は脳卒中発症後に効きにくくなることが知られており、臨床的な痙縮との関連も報告されている。末梢神経電気刺激併用運動イメージ訓練は脳の可塑性だけでなく、おそらく中枢からの修飾により、相反性抑制の変化をもたらし、Okuyamaらの報告では臨床的な痙縮の改善も認めている。本手法は、理論上は運動イメージとカップリングできる末梢神経であれば応用可能であり、手指屈曲や足関節背屈をターゲットにする試みが、今後行われていくと予測される。