[CSP8-2] 経頭蓋直流刺激によるγ帯域への効果の検討:無作為化二重盲検試験
【目的】経頭蓋直流刺激(tDCS)は苦痛を伴わない微弱な直流刺激を与える非侵襲的な脳刺激方法であり、認知機能の強化や様々な神経疾患での有効性が明らかになりつつある。近年の研究からtDCSのNMDA受容体を介した神経伝達に対する影響が示唆されているが、その効果発現メカニズムの神経基盤は十分に検討されていない。一方、聴性定状反応は周期的な聴覚刺激に対する定常的な脳反応であり、γ帯域の刺激で反応が最もよくみられる。さらに40Hzの刺激による聴性定状反応はNMDA受容体を介した神経伝達を反映していると報告されている。今回私たちはtDCSの効果を、40Hz聴性定状反応を用い脳磁図で捉え比較検討した。【方法】本研究は二重盲検プラセボ対象クロスオーバー試験を用いた。健常成人24名を対象とし、tDCS(陽極-左前頭部、陰極-右前頭部)の実刺激(2mAで13分間の直流電流を2回)もしくはシャム刺激(プラセボ)を施行後、40Hz聴性定状反応時の脳磁図を計測した。脳磁図データから事象関連スペクトラル摂動(event-related spectral perturbation:ERSP)と試行間位相同期(inter-trial phase coherence:ITPC)を計測し、関心領域で対応のあるt検定による比較を行った。【結果】多くの関心領域において、40Hz付近に実刺激、シャム刺激共に明瞭なERSP、ITPCが観察された。しかし、γ帯域におけるERSP、ITPCはどちらも実刺激とシャム刺激の比較で有意な差はみられなかった。【考察】tDCSによるγ帯域のERSP、ITPCの有意な変化が認められなかった理由について以下の2つの原因が考えられた。1つ目は、tDCSが実際には効果があるが、その影響が小さいため検定力が不足しているという点である。この場合、そのわずかな効果を明らかにするにははより多くの症例が必要と考えられた。2つ目は、tDCSはNMDA受容体を介した神経伝達に特定の影響を与えていないという点である。この場合、他の神経伝達物質の影響を反映した別の評価課題が必要であると考えられた。