[CSP8-3] 気分障害と統合失調症における両側前頭部のtDCSで生じる電界シミュレーション
経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は気分障害や統合失調症において、抑うつ症状や陰性症状への有意な効果を報告する臨床研究がある一方で、治療効果の個人差も少なくなく、治療反応を予測する生物学的指標の確立が求められている。近年、tDCSによって脳内に生じる電界値を脳構造画像をもとにシミュレーションするソフトウェアが開発されて注目を集めているが、まだまだ疾患群での知見は乏しい。演者がDepartment of Psychiatry and Psychotherapy, University Hospital, LMU Munichに留学中に同教室が保有する画像コホートを用い、検者2名でうつ病群、統合失調症群、健常群における前頭部tDCSによって生じる電界シミュレーション値を比較したところ、検者2名ともで統合失調症群の両側前頭領域の電界シミュレーション値は健常群と比較して有意に低く、検者1名(rater 1)でうつ病群の両側前頭領域の電界シミュレーション値は健常群と比較して有意に低く、検者1名(rater 2)で統合失調症群の左側頭領域の電界シミュレーション値は健常群と比較して有意に低いという結果を得た。さらに和歌山県立医科大学医学部神経精神医学教室の保有する画像データを用い、検者2名でうつ病群、躁うつ病群、統合失調症群、健常群における前頭部tDCSによって生じる電界シミュレーション値を比較したところ、検者2名ともで統合失調症群の両側前頭領域および脳幹、小脳領域の電界シミュレーション値が健常群と比較して有意に低いという結果を得た。統合失調症群の健常者と有意な差異を生じたボクセルにおいて、電界シミュレーション値と精神症状、全般機能との関連を検討したが、有意な結果は得られなかった。以上より、統合失調症群における両側前頭部のtDCSによる電界シミュレーション値の低下は2つの独立した画像データと検者による検討で再現性をもって確認された。これらの結果は、tDCSの臨床応用に際してtDCSによって生じる電界の疾患群間差および疾患群内の個人差に注目する必要性を示唆している。なお、本演題で発表する研究は実施施設の倫理委員会の承認を得て実施されている。