日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム9 リハビリテーション治療における歩行分析の有用性 (日本リハビリテーション医学会)

2020年11月27日(金) 10:10 〜 11:40 第6会場 (2F I)

座長:長谷 公隆(関西医科大学 リハビリテーション医学講座)、藤原 俊之(順天堂大学大学院 医学研究科リハビリテーション医学)

[CSP9-3] 歩行の質的な特徴量としてのLimb Kinematics

大畑光司, 川崎詩歩未, 鈴木翔太 (京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻)

【歩行分析の問題】歩行運動を質的に評価するために、一般的には関節運動の詳細な記述が必要であるとされる。具体的には歩行の異常性を示す指標として、関節角度のPeak値やその対称性、変動係数などが用いられることが多い。しかし、個別の関節角度の指標が全体的な歩行機能に寄与するかどうかについては明確ではなく、その解釈は冗長となる。【歩行運動の質的指標】近年、歩行の運動学的評価指標をJoint Kinematics(JK)とLimb Kinematics(LK)に分けて表現する試みがなされている(Shin SY, 2020)。JKが旧来から用いられる各関節角度についての特徴量であるのに対して、LKは端点(End-Effecter:足部)の運動学的な挙動をまとめたものである。具体的には股関節から足部の距離(limb length)やその方向、およびその軌跡などがこれに相当する。LKを歩行の運動学的特徴量として用いる利点はいくつか存在する。一つは、歩行に対する中枢制御が、各関節に対して独立して行われている訳ではないことから、LKはより中枢内制御変数に近い指標である可能性があること、もう一つは股関節と足部がそれぞれ身体重心位置(COG)と足圧中心位置(COP)に近いため、力点と作用点の関係を推察できることである。【ロボット体重免荷装置がLKに与える影響】我々は現在、Woodway社製 KINEASSISTが歩行運動に与える影響を調べている。本機器は腰回りに取り付けられたロボットアームに加えられた水平方向の力を検出し、速度調整を行うことができる体重免荷ロボットシステムである。通常の体重免荷装置が垂直方向の力のみを制御するのに対して、本機器では水平方向に加わる力も制御することができる。我々は本機器を用いた快適歩行と最大歩行のLKの変化を、3次元運動分析装置(Acuity 社製OptiTrack)を用いて調査した。健常者においては快適歩行から最大歩行へ速度を増加させることができるが、片麻痺者においては快適歩行から努力性に最大歩行へ変化させても速度に明確な変化が生じなかった。両者のLKの違いとしては、健常者では歩行の制動力に関連する前方への下肢角度(股関節と足関節の垂直線に対してなす角度)を減少させて速度を増加させていたが、片麻痺者においてはそのような変化をおこすことができていなかった。つまり、片麻痺者では、麻痺側のステップ位置の制御不全により速度変化が起こせないのではないかと推察された。【歩行分析の特徴量の探索】以上のように、LKは歩行障害の制御の異常を定量化できる可能性があると考えられる。このような効果的で簡便な歩行の特徴量の抽出は、臨床的な歩行分析の有用性を高めることが期待される。