[EL17] 脊磁計の開発~技術的側面から
【はじめに】脊磁計は脊髄や脊髄神経の活動に伴う微弱な磁場を体表面にて、高感度な磁気センサで検出し、得られた磁場分布を解析することによって、もとの神経の電気生理的な情報を非侵襲的に得られる装置である。体表面で観測される磁場の強度はひじょうに小さいので、脳磁計や心磁計と同様に、超電導を応用したSQUIDと呼ばれる素子を適用した磁束計で検出する。本講演では、開発初期の動物実験用装置から、臨床に適用しうる装置として結実した最新の検査システムまで、全ての脊磁計の基幹要素であるSQUID磁束計の原理と、その他の周辺技術について、脊磁計開発の黎明期からこれまでを振り返りながら概説する。【脊磁計の要素技術】脊磁計のシステム構成は基本的には従来の脳磁計とそう変わらない。しかし、脊髄を伝播する信号は脳磁信号よりも帯域が高く、かつ強度が小さいため、そのような信号を効率よく検出し、理解可能な診断情報として提供できるように、ハードウェアやソフトウェアにいくつかの工夫がなされている。具体的には、1. 狭い観測領域からできるだけ多くの磁場情報を引き出すベクトル型SQUID磁束計センサアレイ、2. 被験者の背側から磁束計を体表面に密着させるユニークな形状の低温容器、3. 伝導速度の測定精度に寄与する高速データサンプリング、4. 電気刺激によるアーチファクトを除去する信号処理と機能イメージングを提供する磁場源解析アルゴリズムなどである。また、脊磁計のようなSQUIDを用いる生体磁気計測装置は液体ヘリウムを消費するため、高額なランニングコストが病院への導入の障壁の一つなっている。このランニングコストを劇的に低減するパルスチューブ冷凍機によるクローズドサイクルの液体ヘリウムリサイクルなどについても述べる。【結語】1999年に東京医科歯科大学の川端茂徳先生と脊髄磁場計測の研究開発を始めてから、早くも20年以上が経過した。昨今、一つのテーマを20年間もやらせてもらえるなど、めったにあることではなく、改めて脊磁計開発のプロジェクトが研究環境に恵まれていたことに感謝する次第である。民間企業への技術移転も進み、医療機器としての製品化もすぐ目の前となった。早期に全国の病院で一般的に使える診断装置とするべく引き続き尽力していきたい。