[SP11-3] 脊磁図(神経磁界計測)を用いた胸腰椎の神経電気活動の非侵襲的機能評価
【脊磁図とは】
脊磁図(神経磁界計測)は、X線やMRI等の画像評価では得られない神経の機能的評価を行うことのできる画期的な手法である。株式会社リコー、金沢工業大学とともに超伝導量子干渉素子(SQUID)センサを使用した脊磁計(神経磁界計測装置)を開発した。神経を流れる電流の周囲に生じた磁界を計測し、元の電流分布を求め、単純X線やMRIを重ね合わせ可視化することで、神経機能評価を行う。
脊磁図の大きな特徴は、非侵襲的で、周囲組織の影響を受けにくく、高い空間分解能を持つ点である。これまで電気生理学的検査では、体表から深い位置にあって骨に囲まれている脊髄や馬尾神経の体表からの電位計測は困難であり、硬膜外電極挿入など侵襲的操作を必要としていた。しかし、磁界は電位とは異なり骨や軟部組織の影響を受けにくいため、体表からでも脊髄や馬尾神経に生じた磁界を計測することができ、非侵襲的に機能評価が可能である。また、脊髄に生じる磁場は心臓や脳の磁場と比較して非常に小さいが、感度の非常に高い磁気センサを用いることで、高い空間分解能をもって計測ができる。
【腰椎・胸椎の脊磁図】
神経症状のない健常者において、腓骨神経・脛骨神経を電気刺激した後の脊磁図を測定した。腓骨神経ではL5、脛骨神経ではS1神経根に沿って椎間孔内に流入し脊柱管内を上行していく電流分布が詳細に可視化された。また、片側下肢痛を主訴とするL5,S1神経根症患者についても同刺激後に脊磁図測定を行った。伝導障害を認めた例では、すべてヘルニア高位に一致しており、伝導障害のなかった例では、安静時症状を有しておらず、神経機能を正確に反映していると考えられた。
しかし、これらの刺激法では、神経機能の衰えた高齢の患者では信号強度が小さく評価困難なことも経験した。さらに大きな信号強度を得るため、坐骨神経刺激を併用し、下肢症状を有する馬尾症・神経根症患者の脊磁図測定を行ったところ、約9割で神経伝導評価を行うことが可能となった。
さらに、両側坐骨神経刺激法の開発により、信号強度が小さく測定困難だった胸椎の脊磁図測定が可能になった。健常者において腰部から上位胸椎まで上行する電流分布が見られ、世界で初めて全胸髄電気活動の非侵襲的な可視化に成功した。本刺激法を用いて多椎間狭窄のある胸椎後縦靭帯骨化症において責任高位を評価しえた症例も経験した。
【今後の展望】
脊磁図を用いて、世界で初めて上位胸椎から腰椎まで神経電気活動を非侵襲的に評価することが可能となった。脊磁図が胸腰椎疾患の診療に大きく貢献することが期待される。今後、脊髄障害の回復過程や術後経過等の評価にも有用であることを示してゆきたい。
脊磁図(神経磁界計測)は、X線やMRI等の画像評価では得られない神経の機能的評価を行うことのできる画期的な手法である。株式会社リコー、金沢工業大学とともに超伝導量子干渉素子(SQUID)センサを使用した脊磁計(神経磁界計測装置)を開発した。神経を流れる電流の周囲に生じた磁界を計測し、元の電流分布を求め、単純X線やMRIを重ね合わせ可視化することで、神経機能評価を行う。
脊磁図の大きな特徴は、非侵襲的で、周囲組織の影響を受けにくく、高い空間分解能を持つ点である。これまで電気生理学的検査では、体表から深い位置にあって骨に囲まれている脊髄や馬尾神経の体表からの電位計測は困難であり、硬膜外電極挿入など侵襲的操作を必要としていた。しかし、磁界は電位とは異なり骨や軟部組織の影響を受けにくいため、体表からでも脊髄や馬尾神経に生じた磁界を計測することができ、非侵襲的に機能評価が可能である。また、脊髄に生じる磁場は心臓や脳の磁場と比較して非常に小さいが、感度の非常に高い磁気センサを用いることで、高い空間分解能をもって計測ができる。
【腰椎・胸椎の脊磁図】
神経症状のない健常者において、腓骨神経・脛骨神経を電気刺激した後の脊磁図を測定した。腓骨神経ではL5、脛骨神経ではS1神経根に沿って椎間孔内に流入し脊柱管内を上行していく電流分布が詳細に可視化された。また、片側下肢痛を主訴とするL5,S1神経根症患者についても同刺激後に脊磁図測定を行った。伝導障害を認めた例では、すべてヘルニア高位に一致しており、伝導障害のなかった例では、安静時症状を有しておらず、神経機能を正確に反映していると考えられた。
しかし、これらの刺激法では、神経機能の衰えた高齢の患者では信号強度が小さく評価困難なことも経験した。さらに大きな信号強度を得るため、坐骨神経刺激を併用し、下肢症状を有する馬尾症・神経根症患者の脊磁図測定を行ったところ、約9割で神経伝導評価を行うことが可能となった。
さらに、両側坐骨神経刺激法の開発により、信号強度が小さく測定困難だった胸椎の脊磁図測定が可能になった。健常者において腰部から上位胸椎まで上行する電流分布が見られ、世界で初めて全胸髄電気活動の非侵襲的な可視化に成功した。本刺激法を用いて多椎間狭窄のある胸椎後縦靭帯骨化症において責任高位を評価しえた症例も経験した。
【今後の展望】
脊磁図を用いて、世界で初めて上位胸椎から腰椎まで神経電気活動を非侵襲的に評価することが可能となった。脊磁図が胸腰椎疾患の診療に大きく貢献することが期待される。今後、脊髄障害の回復過程や術後経過等の評価にも有用であることを示してゆきたい。