[SP16-2] ミラー療法による運動麻痺へのアプローチ
運動麻痺の改善は、脳卒中後の理学療法にとって大きな目標であり、これまで特殊な手技をはじめ、様々な介入手法が試みられてきた。近年は、科学的根拠に基づいた治療の重要性が広く認識され、脳の可塑的な変化を促す非侵襲的な電気刺激の利用など、神経生理学的な知見に基づいたアプローチの実践が積極的に試みられ効果が報告されている。一方で、臨床現場における導入コストなどを考えた場合、より簡便に、科学的知見を含有した治療介入アプローチが望まれている。そのような中、ミラーセラピーは一つの選択肢となり得ると考える。自身の手足を動かしているところを鏡に描写し、観察することで運動の錯覚を誘発するミラーセラピーは、当初幻肢痛の介入手法として開発され臨床への応用が進んでいた。そして2000年頃に脳卒中患者の運動麻痺の治療手段としても効果が報告されて以降は、その生理学的な作用機序の解明に関する研究やより効果的な実践方法の開発など様々な取り組みが国際的に行われている。我々は2010年頃から、ミラーセラピーにより運動を学習する際の神経学的機序を解明するため、経頭蓋磁気刺激(TMS)や経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を使った一連の実験を行い、いくつかの興味深い知見を得ている。1)ミラーセラピーによる運動機能改善には、鏡に映る四肢対側の一次運動野活動の促通が重要であり、一時的に一次運動野の興奮性を抑制すると得られた学習効果が消失する2)両手間学習転移(Intermanual Transfer)による運動の学習効果の関与は低い3)一次運動野の興奮性変化には、運動の錯覚が重要な要因である4)ミラーセラピー中に一次運動野の興奮性を電気刺激により促通することで、学習効果が高くなるこれらの結果に加え、近年も様々な研究成果が国際的に報告されており、ミラーセラピーの運動機能改善に対する効果の認識やその神経学的機序の理解が進んできている。また、メタアナリシスやシステマティックレビューなどにおいても、他の治療介入に比べ比較的高い介入効果が報告されている。今後は、バーチャルリアリティ技術などの情報工学技術を積極的に取り入れながら、臨床での使用をより拡大するとともに、大規模な効果検証を実践していく必要があるものと考える。本シンポジウムでは、ミラーセラピーを使った介入により運動機能が変化する神経生理学的な作用機序に関する考察から、臨床における介入効果のレビュー、そして臨床応用の可能性について発表させて頂く予定である。