日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム18 片麻痺の歩行障害の運動学的理解と歩行訓練

2020年11月28日(土) 08:30 〜 10:00 第7会場 (2F J)

座長:出江 紳一(東北大学大学院 医工学研究科)、加賀谷 斉(藤田医科大学医学部リハビリテーション医学I講座)

[SP18-2] 関節の硬さから考える片麻痺患者の歩行再建

関口雄介1,2, 大脇大3, 本田啓太1,2, 出江紳一2,4 (1.東北大学病院 リハビリテーション部, 2.東北大学大学院 医学系研究科 肢体不自由学分野, 3.東北大学大学院 工学研究科 ロボティクス専攻, 4.東北大学大学院 医工学研究科 リハビリテーション医工学分野)

 関節の硬さは従来、走行や歩行などの動作解析の研究結果から、スポーツ領域において、その重要性が認識されていた。歩行や走行時、接地前に足関節底屈筋の活動により足関節を硬くさせた状態で接地時に足関節を固定若しくは背屈させ、離地時に底屈する。接地時に硬くなった足関節底屈筋の筋腱複合組織が伸張され、バネのように弾性エネルギーが貯蓄され、底屈時にその弾性エネルギーが運動エネルギーに変換される。このような足関節の硬さを介した弾性エネルギーの利用は、歩行時の良好なエネルギー効率の一役を担っていると考えられている。一般的に片麻痺患者の足関節は、拘縮や痙縮の影響により硬くなる。このような足関節の硬さは歩行パフォーマンスの向上のため治療すべき対象として、ボツリヌス療法を代表とする医学的治療が行われてきた。先行研究より健常者の足関節の硬さは歩行パフォーマンスにとって重要と考えられるが、片麻痺患者の歩行中における足関節の硬さの特性や歩行パフォーマンスとの関係は不明であり、歩行再建のため足関節の硬さをどのように治療するかは議論の余地があった。
 我々は片麻痺患者の歩行中の足関節の硬さに関する研究を、3次元動作解析装置を用いて行ってきた。結果として、片麻痺患者の歩行時の麻痺側足関節の硬さと足関節底屈方向の力発揮及び歩行速度との関連を認めた(Sekiguchi et al., Clin Biomech 2012)。更に片麻痺患者における歩行時の麻痺側足関節の硬さは、立脚中期に低下し、低下した腓腹筋の筋活動や足関節底屈筋と背屈筋の共同収縮と関連することを明らかにした(Sekiguchi et al., Gait Posture 2015, Gait Posture 2018)。
 このような結果を基に歩行中における麻痺側足関節の硬さに対して、東北大学工学部の大脇大氏とともに開発した機器を用いて再建を試みてきた。足関節の硬さを生成するカムバネ機構を用いた足関節装具や音による足底圧フィードバック装置を開発し、これらの機器を使用した際に片麻痺患者における歩行中の麻痺側足関節底屈方向の力発揮の増大を認めている(Sekiguchi et al., Gait Posture 2020; Owaki et al., Neural Plast 2016)。更にスポーツ領域で行われているStretch Shortening Cycleの概念を取り入れた、足関節の硬さに対する新規のトレーニング方法を考案し、片麻痺患者の歩行への効果の検証も行っている。本講演では、これらの研究結果を紹介する予定である。