日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム19 TMSを用いた神経生理学的研究と精神科領域への臨床応用

2020年11月28日(土) 10:20 〜 11:50 第5会場 (1F C-2)

座長:鬼頭 伸輔(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター病院)、野田 賀大(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)

[SP19-3] TMS-EEG計測による脳ダイナミクスのプローブ手法の提案

北城圭一1,2 (1.自然科学研究機構 生理学研究所 システム脳科学研究領域 神経ダイナミクス研究部門, 2.理化学研究所 脳神経科学研究センター CBS-トヨタ連携センター 脳リズム情報処理連携ユニット)

ヒトの脳活動は多様な非線形ダイナミクスをみせる。特に振動、同期、ノイズ誘起ダイナミクス等は、さまざまな脳機能、脳情報処理の基盤メカニズムとして利用されていることを示唆する先行研究が数多く報告されている。通常、さまざまな課題時の脳波データを計測、解析、定量化することで脳ダイナミクスと脳機能との関連、脳情報処理機構の解明が試みられてきた。
いっぽう、安静時自発活動ダイナミクスの計測と解析も最近盛んに行われており、さまざまな精神・神経疾患の病態と自発活動ダイナミクスの変容との関連が盛んに報告されている。我々の研究グループも脳卒中、自閉症傾向等の病態や個人特性に関して、同期、振動等の脳ダイナミクスに注目した研究報告をこれまで行ってきた。自発活動ダイナミクスは誘発活動ダイナミクスに比べて、患者への負担をより少なく計測が可能という利点があり、今後さらにサロゲートバイオマーカーとしての応用展開も期待できる。
一方で、物理システムの特性を知るためには、従来より、外部から摂動を与えることにより、インパルス応答等を調べるということが行われてきた。より具体的には、物理システムに外部刺激を印加し、その応答によりシステムの内部状態、ダイナミクス特性をプローブするということである。外部刺激に対するシステムの応答の共鳴周波数やその時間変化等を調べることで、外部刺激を印加せずには知ることができないシステムの性質を知ることが条件によっては可能である。
これに関して、近年、ヒト脳研究においても、脳に比較的シンプルな外部刺激を印加したたときの脳波応答をみることで、脳の内部状態や隠されているダイナミクスを定量化するということが行われ始めている。我々の研究グループは、特に、TMS(経頭蓋磁気刺激)で脳に摂動を与えて、脳波同時計測により脳波ダイナミクスを定量化する研究を行ってきた。脳システムに摂動を与えて内部状態やダイナミクス特性をプローブするというアイデアに基づいた研究である。このような我々のグループの一連の研究成果を総括して、特に柔軟な脳情報処理のために必要な脳ダイナミクスの特性としてのメタスタビリティに着目した脳ダイナミクスのプローブ手法の精神神経疾患研究への展開可能性について報告し、議論を行いたい。