日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム20 脳神経外科手術におけるモニタリングとマッピング

2020年11月28日(土) 13:30 〜 15:00 第6会場 (2F I)

座長:佐々木 達也(東北医科薬科大学 脳神経外科)、後藤 哲哉(聖マリアンナ医科大学脳神経外科)

[SP20-5] 皮質脳波記録

藤井正美, 長綱敏和, 長光逸, 金子奈津江, 安田浩章, 浦川学, 山下哲男 (山口県立総合医療センター 脳神経外科)

 大脳皮質から直接記録される脳波は、ノイズが少なく、空間分解能が高く、安定した記録が可能である。皮質脳波は難治性てんかんにおいて、術前評価として慢性に埋込んだ硬膜下電極または深部電極から脳波を記録することや術中に脳波をモニタリングすることによりてんかん焦点の切除に有用な情報を与えてくれる。皮質脳波記録はてんかん原生域の局在と広がりを同定でき、てんかん手術に欠かせないモニタリング手法といえる。
 慢性頭蓋内脳波記録では、発作起始部位は通常の周波数帯域において低振幅速波(low-voltage fast beta activity)として認知される。しかしデジタル脳波計の進歩に伴い、band-pass filterを広げることで、0.5Hz以下のゆっくりとした大きな電位(100μV-1mV)をもつ波形(DC shift)やγ帯域を超える80Hz以上の脳波活動である高周波振動(high frequency oscillation;HFO)から発作起始部位を推定することができるようになった。
 皮質脳波は内側側頭葉てんかんや限局性皮質異形成(FCD)などの病巣を伴う皮質てんかんにおいて、術中モニタリングとして切除範囲の決定にも用いられている。扁桃体海馬切除術や海馬多切術(hippocampal transection)において切除前後で脳波を記録し、棘波が消失することを確認してその処理範囲を決定する方法が用いられている。また、FCDでは病変の切除後に棘波が残存する周囲皮質の切除範囲の決定に用いられている。しかしirritative zoneかictal onset zoneかの判断は難しく、術中記録される棘波出現部位をすべて切除する必要があるのかに関しては、議論のあるところである。
 術中皮質脳波を記録する場合、てんかん放電を抑制する麻酔薬を用いると、てんかん焦点が過小評価されることになり、信頼性が低下する。そこで我々はてんかん焦点の賦活作用があるセボフルランを麻酔薬として用いている。発作起始部位の予測に適していると言われる0.5MACのセボフルラン濃度で棘波の出現を確認し、切除範囲決定の目安としている。
 脳表で記録される脳波では脳溝深部の皮質まで電位変化を記録することには限界がある。近年、側頭葉内側構造、島、帯状回などの深部皮質に対して、定位脳手術の技術を用い、10数本の深部電極を慢性的に留置して、てんかん原生域を特定するステレオ脳波の手法が欧米を中心に行なわれている。皮質脳波記録法は手術手技やデジタル技術の進歩に伴い、形態を変え徐々に進歩していることが伺われる。