日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム21 作業療法学と臨床神経生理学の融合

2020年11月28日(土) 15:20 〜 16:50 第5会場 (1F C-2)

座長:石井 良平(大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科 臨床支援系領域)、稲富 宏之(京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻)

[SP21-4] がん・認知症に対するVirtual Realityを活用した非薬物的アプローチの可能性

仁木一順1,2 (1.大阪大学大学院 薬学研究科, 2.市立芦屋病院 薬剤科)

超高齢社会を迎え、さらにはCOVID-19の影響を受けて医療の在り方が劇的に変化している。そこで、感染防止に貢献しながらも医療の質を損なわないための手段として現在注目されているのが、スマートフォンやVirtual Reality(VR)などのデジタル機器を活用した非薬物的アプローチ、すなわち、デジタルセラピューティクスである。我々は、特に高齢者医療におけるVRの医療応用を試みており、本発表では、がんについては緩和ケアの充実化、化学療法の副作用軽減に向けた取り組みを、認知症については新たな回想法の実践例をご紹介する。緩和ケア病棟では、入院患者が外出や帰宅を希望しても様々な症状のため、また、特に昨今はCOVID-19のためにその実現が難しいことが珍しくない。そこで我々は、VRが生み出す“その場にいるような臨場感”に着目し、患者の外出希望をVRによって疑似的にでも叶えることができればQOLの改善につながるのではないかと考え、VRの活用を検討した。我々は、緩和ケア病棟の入院患者20名(平均年齢72.3歳)にVR旅行を体験してもらい、その前後における様々な身体、精神症状の変化についてエドモントン症状評価システムを用いて評価した。その結果、「痛み」「倦怠感」「眠気」「息苦しさ」「気分の落ち込み」「不安」「全体的な調子」に関して有意な改善が認められ、かつ、重篤な副反応は認められなかったことから、VRは新しい緩和ケア手法として有用である可能性が示唆された。現在、本検討で得られた“VRが気分の落ち込みや不安を改善した”という知見に着目し、化学療法中のストレスケア手法としてのVRの可能性を検証している。また、現在の認知症治療においては、軽度認知機能障害の段階からの対応が重要とされ様々な非薬物療法が行われているが、その中でも我々が注目したのが回想法である。実際に我々は、緩和ケア病棟での検討を通して患者が故郷などの思い出の場所にVR旅行することで当時の思い出を活き活きと語る様子を目の当たりにしてきたため、臨場感を伴った回想法(VR回想法)を実施すれば従来法よりも優れた効果が期待できるのではないかと考えた。そこで、まずはBPSD対策の観点から、後期高齢者の精神面への影響に着目したパイロットスタディを行った。介護施設のデイサービス利用者10名(平均年齢87.1歳)を5名ずつ2群に分類し、昭和をテーマとした2種類のVR映像(CG、実写)を交互に閲覧するクロスオーバー試験を実施して「不安」の変化を評価した結果、VR閲覧後には「不安」が有意に軽減し、重篤な副反応は認められなかった。現在はVR回想法を継続的に実施した際の有効性、安全性を検討している。今回ご紹介する取り組みはいずれもプレリミナリーな段階であるが、経過や将来展望も併せて紹介させていただき、皆様と活発に議論できれば幸いである。