[SP6-1] 頸椎後方除圧手術における脊髄モニタリング
【はじめに】圧迫性頚髄症は高齢化社会である本邦においてはcommon diseaseであり、手術治療を行う機会は増えてきている。本邦で開発された頸椎椎弓形成術は汎用される術式でその治療成績も良好であるが、いまだC5麻痺などの神経合併症を完全に予防することはできない。近年脊髄モニタリングの知見は発展し、多くの施設で汎用されており、とくに脊髄腫瘍や胸椎OPLLといった高リスク手術ではその有用性が報告されている。しかし圧迫性頚髄症に対する脊髄モニタリングの意義や有用性の根拠は十分ではない。【目的】圧迫性頚髄症に対して頸椎後方除圧手術における脊髄モニタリングの有用性と問題点を検討する。【対象と方法】当施設で2017年~2019年に圧迫性頚髄症の診断で頸椎後方除圧手術を行った100症例を対象とした。疾患の内訳は頸椎後縦靭帯骨化症36例頚椎症性脊髄症64例である。術中脊髄モニタリングは径頭蓋電気刺激によるBr-MsEPを両三角筋(delt)、上腕二頭筋(bic)、小指外転筋(ADM)、大腿四頭筋(Qc)、母趾外転筋(AH)を被験筋として術中に測定を行った。また脛骨神経刺激の体性感覚誘発電位をCz-Fz点で測定した。MsEPのアラームはコントロール波形の70%以上低下とし、術当日にMMTで1以上の筋力低下が発生を陽性と判定した。術後1日目以降の麻痺は遅発性とし、陽性に含めなかった。アラームに対して介入を行った結果、MsEP波形が回復し術後筋力低下がなかったものをレスキュー症例と判定した。【結果】True positiveは頸椎OPLL1例でC5麻痺であった。椎間孔拡大後に発生し操作中止したがレスキューできなかった。術前にC5領域の筋力低下の既往があった。レスキュー症例はOPLL3例で、アラームのタイミングは除圧直後が3例で2例が後方固定追加で1例は操作中止で波形回復した。この3例は術前に筋力低下はなかったが、骨化占拠率がいずれも50%を超えていた。なお遅発性上肢麻痺は検出することはできなかった。下肢麻痺の発生はなかった。【考察】圧迫性頚髄症において最も多い神経合併症はいわゆるC5麻痺でおよそ5%とされている。当施設では選択的椎弓形成術を行うことが多く、C5麻痺発生が少なかったと考えられる。MEPのアラーム発生は占拠率の高いOPLLで起きやすく、術中神経損傷を反映していると推察される。後弯および脊柱管狭窄が強い症例では、頸椎後方手術中に前屈で脊髄が圧迫されMEPが術中に低下し姿位の変更で回復が得られる報告がある。よってとくに脊髄圧迫の強い症例でアラームが発生した場合は、神経損傷をMEPが反映していると考え、適切な介入を行うことが望ましい。