[SP6-4] 脊髄腫瘍に対する術中脊髄モニタリングの工夫: 日本脊椎脊髄病学会モニタリングワーキンググループ多施設共同研究
【はじめに】脊髄腫瘍は術中に麻痺増悪をきたす危険性が高く,日本脊椎脊髄病学会モニタリングWGの多施設共同研究での術後麻痺率は髄外腫瘍3.6%,髄内腫瘍で18.1%であった.術後麻痺を予防するための術中脊髄モニタリングがもっとも重要視される疾患であり,本演題ではそのポイントについて述べる.【方法および結果】(1)髄外腫瘍 2010年から2016年までの髄外腫瘍635例のうち,電位低下があったものが50例で,実際に麻痺を生じたものは24例であった.麻痺例を検討すると,両側麻痺は21%に過ぎず,79%は片側性であった.しかも片側近位筋のみの麻痺が29%,片側遠位筋のみの麻痺が29%と特定の髄節だけの障害が多く,左右各筋ごとに評価できる経頭蓋電気刺激筋誘発電位(TcMsEP)モニタリングが非常に有用であった.また,神経鞘腫摘出術の際の麻痺が多く,麻痺予防のためには腫瘍発生根を電気刺激して運動枝か感覚枝か鑑別し,運動枝であれば核出術を行って神経根を温存することが重要である.(2)髄内腫瘍 2010年から2013年までの髄内腫瘍117例のうち,70%電位低下をアラーム基準とした場合,アラーム陰性で手術が終了したのが85例(73%)で,このうち2%が偽陰性で麻痺を生じた.アラーム陽性となった32例(27%)うちレスキュー操作によって電位が回復したレスキュー例が19%,電位が回復しないが麻痺は生じなかった偽陽性が22%,電位が回復せず実際に麻痺が生じた真陽性が59%であった.波形消失例は11例あり,このうち10例で麻痺が増悪し,偽陽性は1例のみであった.この結果から,我々は,70%電位低下でレスキュー操作を行い,波形消失までには撤退を推奨する2段階アラーム基準を推奨している.3ヶ月以上回復しない麻痺は7例に見られ, 4例は上衣腫,2例はその他,1例は星細胞腫であった.【考察】脊髄腫瘍摘出術では腫瘍と正常組織との境界が明瞭であれば電位低下もなしに全摘することが可能で,麻痺の危険もほとんどない.しかし,境界が不明瞭な場合剥離操作中に電位が70%以上低下することはしばしばある.レスキュー操作で電位が回復すれば良いが,回復しない場合,摘出を断念すれば再発の危険性があり,摘出を強行すれば麻痺の危険性が高まるというジレンマに直面する.そこで我々は波形消失までに撤退することを推奨したが,実際には全摘出の必要性は患者の病態や腫瘍の性状によって異なるため,モニタリング結果だけで決定することには無理がある.そこで最近では,電位低下を50%,70%,90%,多相化など複数の基準によって7段階に分類する7段階カラートリアージ法を検討している.各段階での麻痺率は,電位低下が強くなるに従って上昇しており,これを参考にすれば手術方針決定の役に立つと考えている.