50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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ワークショップ

ワークショップ3 問題症例の神経筋診断

Thu. Nov 26, 2020 4:30 PM - 6:00 PM 第7会場 (2F J)

座長:有村 公良(大勝病院)、畑中 裕己(帝京大学 神経内科)

[WS3-1] 脳炎後に急性の左肩周囲筋の筋力低下を呈した一例

佐久間克也1, 大森まいこ1, 加藤千尋1, 益田結子1, 櫛田幸1, 岡阿沙子1, 杉山瑶1, 小林由紀子2, 赤星和人2, 辻哲也2 (1.国立病院機構 埼玉病院 リハビリテーション科, 2.慶應義塾大学 リハビリテーション医学教室)

【症例】79歳男性。X-5日より続く発熱の精査目的でX日に当院内科入院となった。X+3日に当科依頼あり、その時点で意識障害、小脳失調を認めた。無菌性脳炎・髄膜炎の診断で脳神経内科転科、ステロイドパルス療法を施行された。頭部MRIでは明らかな異常所見を認めず、意識レベル、小脳失調は徐々に改善したがX+15日より左肩関節挙上障害を自覚した。【X+3日の現症】意識レベルJCS10、Barre徴候+/-、右協調運動障害、測定障害あり。明らかな筋力低下認めず。【X+15日の現症】意識レベルJCSI-1、協調運動障害は認めず。MMTは肩関節屈曲 5/2、外転5/2、伸展5/4であった。左棘上筋、棘下筋の萎縮を認めた。【経過】頸椎MRIではC5/6、6/7レベルで変形性変化による軽度脊柱管狭窄を認めたが、明らかな頚髄内病変は認められなかった。X+17日の神経伝導検査では、三角筋中部線維から表面電極で記録した腋窩神経の複合運動電位(CMAP)振幅は、健側比77%であった。その他正中神経や尺骨神経、脛骨神経の運動・感覚神経の明らかな異常所見は認めなかった。針筋電図検査でも明らかな異常所見は認めなかった。X+30日の時点でも症状は改善なく、左肩の自動屈曲外転は重力下では不可能であった。筋萎縮も改善を認めなかった。神経伝導検査において腋窩神経のCMAP振幅は健側比43%であった。針筋電図検査では左C5支配筋において随意収縮時に多相性運動単位電位の混在を認めた。C5傍脊柱筋にも多相性電位を認めたため、頚椎症性筋萎縮症と考え上肢機能回復のリハビリテーションを継続した。自宅退院の希望が強くX+42日に自宅退院となり、自宅近くでの外来リハビリテーションを継続することとなった。X+77日発熱症状あり、尿路感染症の診断で当院脳神経内科再入院。X+80日のMMTは肩屈曲5/4、外転5/4、伸展5/4であった。左棘上筋、棘下筋の萎縮は改善傾向で神経伝導検査では腋窩神経のCMAP振幅は健側比66%と回復していた。針筋電図では左棘上筋において安静時脱神経電位をわずかに認めた。その他のC5支配筋では安静時異常所見は認めなかった。【考察】本症例の急激な左肩周囲筋筋力低下の原因として、頚椎症性筋萎縮症と神経痛性筋萎縮症が疑われた。この二つの疾患の鑑別は難しいことが多く、電気生理学的検査は有用である。神経痛性筋萎縮症はウイルス感染が先行することが多いと言われており、今回脳炎後に発症したものである可能性を考えたが、意識障害によりはっきりした疼痛のエピソードを認めなかったこと、2回目までの検査で脱神経電位を認めなかったことから診断に苦渋した。