[WS6-2] 経頭蓋交流電気刺激(tACS)の刺激周波数と位相依存的効果について
【はじめに】経頭蓋交流電気刺激(tACS)は、2008年に非侵襲的な脳刺激法の一つとして報告された。2000年から導入された経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は、頭皮上から1~2 mAという微弱な直流電気刺激を行い大脳皮質ニューロンの膜電位を調整し、その発火頻度が変化することで陽極刺激は興奮性に、陰極刺激は抑制性に働くとされる。一方で、頭皮上から微弱な交流電気刺激を行うtACSでは、電極間の極性が周期的に変化するため、膜電位が持続的に調整されるとは考えにくく、大脳皮質の周期的活動を同期させることで脳活動を変調すると考えられている。【周波数依存的効果】脳波などで観察される脳の周期的な電位変動(振動現象)を振動子とみなすと、tACSのような周期的な外的刺激によって振動のタイミングを同調させる場合があり、これを引き込み現象という。この引き込み現象は、大脳皮質に内在する振動現象とtACSの周波数が近い場合に起こりやすいと考えられる。実際、tACSではターゲットとなる脳部位に内在する周波数と同じ周波数のtACSを行った場合にその効果が明らかになった。例えば、α振動で代表される後頭葉に対してα帯域(10 Hz)tACSを行うと、後頭―頭頂領域のα振動の活動が増大した。更に、我々はα帯域とβ帯域(20 Hz)の tACSを後頭葉に行い、安静時のα振動とVEPを用いてその効果を検証した。その結果、α tACSでのみVEPの振幅が刺激後に増大し、この振幅変化とα振動の活動変化に関連性が示された。これは、α tACSが後頭のα振動を調整し、視覚機能を調整した結果であると考えられる。【位相依存的効果】このような周波数依存的なtACSの効果は運動野(M1)でも観察された。M1ではβ帯域の振動現象が運動機能と関連することが示されている。実際に、M1に対するtACSの研究では、β tACSが周波数依存的にTMSによるMEPの振幅を増大させた。更に、我々はM1におけるβ tACSの位相効果を検討するために、tACSの特定の位相のタイミングに合わせてTMSを行い、MEPを記録した。その結果、β tACSではその位相によってMEPの振幅を調整するが、α tACSでは位相の効果が不明瞭であった。動物実験において、tACSではtDCSのように大脳皮質ニューロンの発火頻度を変調しないが、発火のタイミングを位相依存的に調整することが示されている。そのため、tACSの位相効果が、このような大脳皮質ニューロンの活動のタイミングの変化をとらえている可能性がある。【おわりに】前述のように、tACSでは刺激周波数と位相の両者が重要な刺激パラメータになると考えられ、本ワークショップではこれらの内容を中心にtACSの効果についてまとめる。【参考文献】中薗寿人 他. 経頭蓋交流電気刺激(tACS)による 脳の可塑性誘導. 脳神経内科 93, 54-59, 2020.