第97回日本産業衛生学会

セッション情報

シンポジウム

シンポジウム 8 模擬裁判 日本産業保健法学会共同企画

2024年5月24日(金) 09:00 〜 11:30 第2会場 (広島国際会議場 B1F ヒマワリ)

座長: 倉重 公太朗(KKM法律事務所), 浜口 伝博((一社)産業医アドバンスト研修会)

共催:日本産業保健法学会

 最近はメンタルヘルス事例や職場のハラスメント問題にまで産業保健としてかかわる範囲が広がってきました。事例の側面において「疾病性」が存在しないのなら、労働契約や就業規則を根拠に職場倫理や風紀維持の観点から、本人に忠告し改善を指示するということでいいわけですが、そこに「疾病性」の存在が疑われるような場合には、疾病に由来する症状や行動特性への理解を示したうえで治療を含めた改善を進める必要があります。企業には社会公器としての労働福祉が求められており、人権尊重および法遵守の社会性が求められているからです。| さて事例解決のためには、問題事象のどこまでが「疾病性」であり、どこからが「疾病性」で説明できないのか、に関して確認をしておくことが非常に大切です。そこに明瞭な線引きはできないとしても、問題解決をスタートするにあたり、どの問題部分については、誰がその解決責任者なのか、をあらかじめ確認できればその後の互いの進捗を理解することができるからです。ここで折り合うことができれば、「疾病性」の回復は自己保健義務として本人側が担当し、「疾病性」回復後の労働適正については事業者が就業上の措置を講ずるので、相互の責任が果たされることになります。||-模擬裁判の有用性-| 産業医や産業保健職(産業保健専門職という)は一般医学を修得後に、その応用学として産業保健を実践しています。しかし実際に事例に接してみると、事例の背景や経緯、要素を分析する際には医学は極めて有効ですが、登場人物たちの納得を得ながら事例を解決するためには医学には限界があることを感じます。一方で、社会に通底する法概念を用いて節度や寛容、倫理、規範を共有することができれば、医学的事項を含めたうえで復職を議論することができます。模擬裁判では、両者がそれぞれの立場で引用する根拠事実や根拠法令、立論の構成や正確性などを吟味する技能を訓練することができます。それは、筋道を立てて考え、整理し、自分で理論構築をする実践的な教育となります。模擬裁判は教育ツールとして非常に高い価値があります。||―職場復帰可否の判断基準-|「<改訂>心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(2020.7.9)」より。|職場復帰可否については、個々のケースに応じて総合的な判断が必要です。労働者の業務遂行能力が完全に改善していないことも考慮し、職場の受け入れ制度や態勢と組み合わせながら判断しなければなりません。なお、判断基準の例を下記に示しますので参考としてください。|1.労働者が十分な意欲を示している|2.通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる|3.決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である |4.業務に必要な作業ができる|5.作業による疲労が翌日までに十分回復する|6.適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない|7.業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している |

大林 知華子1、大津 真弓2、安元 隆治3、兒玉 浩生4 (1.ロート製薬株式会社、2.合同会社 ひまわり、一般社団法人 CSRプロジェクト、3.ナリッジ共同法律事務所、4.兒玉法律事務所(広島弁護士会))