[I-S02-05] コンピューターシミュレーションによる血行動態上至適形状に基づいた肺動脈形成術
キーワード:コンピュータシミュレーション, 肺動脈形成術, 至適形状
【目的】Williams症候群などに合併する複雑な肺動脈狭窄に対する形成術は補填するパッチの形状作製が難しく、狭窄の完全解除が困難である。術前にコンピュータ血流シミュレーション(CFD)上で最も理想的な肺動脈形態を構築し、いわば設計図通りに肺動脈形成術を行う新しい手術戦略を世界に先駆けて導入、その有用性を検討した。【対象と方法】症例は10ヶ月、体重7.0kgの女児。診断はWilliams症候群、VSD、肺動脈弁上狭窄、両側末梢肺動脈狭窄で、術前心カテーテル検査では右室圧はほぼ左室圧と等圧であった。術前3D CTから肺動脈形状を作成、この形状に対して、CFD評価を行いコンピュータ上で、wall shear stressとエネルギー損失の最も小さい理想的な肺動脈血管形状を作製した。術前形状と作製された理想的形状を比較し、2つの形状を3次元的に重ねあわせて最適な切開位置を特定、両者の血管形状の差から正確なパッチを設計・作製した。【手術】人工心肺、心停止下にVSDを閉鎖後、肺動脈弁上の狭窄部で切断、左右肺動脈狭窄部を術前に設計した形状・サイズにトリミングした8mm ePTFE人工血管パッチで形成、近位側主肺動脈は3つのsinusを切開して規定の形状・サイズにトリミングした自己心膜パッチで形成した。【結果】術後右室圧は心エコー上20-30mmHgであった。術後の3D-CTより肺動脈形状を作成、wall shear stressとエネルギー損失を計算した。エネルギー損失は、術前が70.4mWに対して、設計図上では10.0mW、術後は7.2mWであった。術後wall shear stressも術前より大きく低下して設計図とほぼ同等以下で、血行動態的に理想的な肺動脈形態が実現できた。【結論】CFDに基づいた肺動脈形成術は、従来の外科医の経験と勘による手術と異なり、誰でも容易に理想的な肺動脈を構築することができる極めて有効な手術戦略である。