[I-S04-04] 疾患特異的iPS細胞による新たな先天性心疾患モデルの作成
Keywords:疾患特異的iPS細胞, 先天性心疾患, 疾患モデル
【背景と目的】疾患特異的iPS細胞はin vitroの疾患モデルとして病態解明や創薬への利用が期待される。心疾患由来のiPS細胞は主に単一遺伝子変異が原因の遺伝性不整脈や心筋症から樹立され、原因不明で心臓形態異常を伴う先天性心疾患からは樹立されなかった。そこで先天性心疾患患者から樹立した疾患特異的iPS細胞が疾患モデルとして有用か検討した。【方法】左心低形成症候群(HLHS)患者組織より疾患特異的iPS細胞を樹立し心筋分化誘導を行い、遺伝子発現やヒストン修飾の変化、心臓特異的プロモーター活性の解析を行った。【結果】HLHS由来iPS細胞は心筋分化誘導過程で、二心室(BV)心由来コントロールに比較し一次心臓領域形成に必須なNKX2-5、HAND1、HAND2、左室流入路と流出路形成、房室管形成、弁形成に重要なNOTCH1、HEY1、HEY2、TBX2の発現上昇が著明に抑制されていた。NKX2-5、HAND1、NOTCH1変異は認めなかった。HLHS由来iPS細胞と心臓前駆細胞はBV由来細胞に比較しSRE、TNNT2、NPPAのプロモーター活性が著明に低下しており、NKX2-5、HAND1、NOTCH1の導入によりプロモーター活性は回復した。またHLHS-iPS由来心筋細胞はBV由来に比較しH3K4me2 とacH3の低下、H3K27me3の上昇を認めた。以上より、HLHSの病態発生にはNKX2-5、HAND1、NOTCH1が必須でありNKX2-5のヒストン修飾の異常も関与している可能性が示唆された。【結語】単一遺伝子変異による疾患のみならず、遺伝子発現の低下やエピジェネティック制御の異常など多数の因子が複雑に関与すると考えられる先天性心疾患の病態解明にも、疾患特異的iPS細胞は有用である可能性がある。疾患特異的iPS細胞には、複数種の細胞が関与する器官異常の病態解明に対応できるかという課題やエピジェネティックメモリーの問題もあるが、動物モデルの作成が困難であった先天性心疾患の病態解明に、疾患特異的iPS細胞は新たな疾患モデルとして有用である可能性が示唆された。