The 52st Annual Meeting of Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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市民公開講座

市民公開講座(LOP)
心疾患患者の社会的自立を目指して - 小児から成人への移行期の諸問題を考える -

Fri. Jul 8, 2016 3:00 PM - 5:30 PM 第C会場 (オーロラ ウェスト)

座長:
西畠 信(鹿児島生協病院 小児科)
星合 美奈子(山梨大学医学部 新生児集中治療部)

LOP-00~LOP-06

3:00 PM - 5:30 PM

[LOP-02] シームレスなトランジション(移行期医療)を目指して
先天性心疾患領域のトランジション 患者様へのアンケートから

落合 亮太 (横浜市立大学医学部 医学研究科看護学科)

 移行期医療(Transition)の目的は、患者さんの自己決定を支援し、患者さんが生涯にわたって持てる機能と潜在能力を最大限に発揮できるようにすることです。近年、先天性心疾患を含む小児期発症疾患を有する方の小児科から成人診療科への転科・転院が話題に上りますが、移行期医療は転科・転院を最終目標とするものではありません。あくまでも、患者さん自身が身体・精神的な発達状況に応じて疾患を理解し、適切な自己決定を行い、その人なりに自立して社会生活を行えるよう支援することが目的です。その一環として、疾患を持たないこどもが成長に伴って小児科から成人診療科へ受診先を変えるように、疾患を有するこどもも、疾患の複雑さや地理的なアクセスを十分に考慮したうえで、通院先を変更することが起こり得ます。
 Transitionは、患者さんの生活全般に関わる概念であるため、非常に幅広く、どこから手をつけてよいかわからない面があります。成人先天性心疾患学会内に設置されている看護情報交換会では、Transitionがカバーする目安を示し、患者さん・ご家族・医療者が目的意識を共有できるように、移行期問診票を作成しています(表を参照)。これは外来診察の前後で看護師さんと一緒に実施したり、患者教室などでみんなでチェックしてみたりという使い方を想定しています。問診票の項目は、通っている病院名や主治医の名前を覚えることから始まり、職業選択、異性との付き合い方、社会保障制度利用など、意思決定を必要とする項目へと進んでいきます。これは、患者さんの自己決定を支援するというTransitionの考え方に準じたものです。
 問診票の項目に「いいえ」がついたら、Transitionは失敗というわけではありません。患者さんによっては病名を答えることが難しかったり、職業に就くことが難しかったりすることもあります。そのような場合でも、各項目についてその方なりの代替手段を講じることが重要です。病院名や病名を言うことが難しければ、緊急時などのために病名が記載された資料(心臓手帳など)を携帯するという手段が有効ですし、一般就労が難しい場合には、福祉的就労や障害年金などの所得保障制度の利用を検討することが重要です。
 今回の市民公開講座では、上記の問診票に加え、これまでに私たちが行ってきた患者さんやご家族を対象としたアンケート調査結果を交えて、先天性心疾患領域における移行期医療の現状と今後の方向性についてご説明したいと思います。 
表 成人先天性心疾患看護情報交換会が作成する問診票(回答は「はい・いいえ」)
1. 今かかっている病院と医師の名前を言えますか
2. あなたの主な病名を言えますか
3. あなたが受けた主な手術の名前を言えますか
4. 現在飲んでいる薬の名前と主な効果を言えますか
5. 現在飲んでいる薬について気をつけることを言えますか
6. 医師や看護師に自分で質問したり、質問に答えたりすることはできますか
7. できること、できないこと(体育・部活動等)について医師に確認していますか
8. 身の回りの整理整とんや家事など、無理のない範囲で自分でできることは自分で行っていますか
9. 感染性心内膜炎の予防方法を言えますか
10. 受診したほうがいい症状と対処方法を言えますか
11. 自分で外来受診を予約することはできますか
12. お酒・たばこをひかえる、十分な休息をとるなど、生活するうえで気をつけることを言えますか
13. 職業を選択する際の注意事項について主治医に確認していますか
14. 異性とのつきあい方で注意することについて、ご家族や主治医と話したことがありますか
15. 現在、利用している社会保障制度と、利用するうえで必要な手続きを言えますか