The 52st Annual Meeting of Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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ミニシンポジウム

ミニシンポジウム1(MIS01)
小児循環器領域におけるiPS細胞を用いた研究の現状

Thu. Jul 7, 2016 5:30 PM - 6:30 PM 第B会場 (天空 センター)

座長:
小垣 慈豊(大阪大学大学院医学系研究科 情報統合医学小児科学)
南沢 亨(東京慈恵会医科大学 細胞生理学講座)

MIS01-01~MIS01-04

5:30 PM - 6:30 PM

[MIS01-02] 小児循環器領域におけるips細胞を用いた研究の現状「心筋症」

廣野 恵一 (富山大学医学部 小児科)

 心筋緻密化障害は、心室壁の過剰な網目状の肉柱形成と深い間隙を特徴とした心筋症で、典型例は新生児期に心不全のため死亡し、心移植の対象になっている疾患である。心筋緻密化障害の原因として、胎生初期のスポンジ状の胎児心筋が違残し、心筋緻密層が低形成になるためと仮定されているが、その機序はいまだに立証されておらず、胎生期の心筋の発達機序を解明する上でも、注目されている。さらに、国内外を通じて系統的な臨床遺伝学的研究はなされておらず、網羅的な遺伝子異常スクリーニングの報告もなく、関連遺伝子の機能解析の報告もない。
 我々は、心筋緻密化障害患者に次世代シーケンサーを用いて心筋発生と心筋症および致死性不整脈にかかわる遺伝子に関して網羅的解析を行った。さらに、患者由来のiPS細胞から誘導した心筋細胞を用いて、誘導過程におけるトランスクリプトーム解析を行った。また、患者iPS細胞由来心筋細胞での細胞構造や細胞内カルシウム動態の解析を行った。
 iPS細胞を用いた本研究では、患者試料からiPS細胞を樹立させることで、研究上のネックであった生体標本における機能解析が容易に行えるようになり、心筋緻密化障害を含めた心筋症に関与する遺伝子の網羅的解析および機能解析が初めて可能になったと考えられる。また、これらの実験は全過程が体外で進行するため、患者あるいはモデル動物を標本とする従来型の研究アプローチに比べて倫理および安全上の問題も少ない。しかし、in vitroの実験系であり心筋症のiPS細胞による研究においても課題もまだまだ多い。だが、本研究系は心筋緻密化障害のみならず、遺伝性心疾患全体の発症機序および治療方法に関する研究を飛躍的に促進し、多くの遺伝性の重症心疾患患者の治療に道を拓くことが期待される。