第53回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム 8 (II-S08)
小児循環器領域におけるiPS細胞研究の展望

2017年7月8日(土) 16:30 〜 18:00 第4会場 (1F 展示イベントホール Room 4)

座長:小垣 滋豊(大阪大学小児科)
座長:山岸 敬幸(慶應義塾大学小児科)

16:30 〜 18:00

[II-S08-02] 疾患特異的iPS細胞を用いた、致死性不整脈疾患の研究

馬場 志郎 (京都大学大学院 医学研究科 発生発達医学講座 発達小児科学)

キーワード:iPS細胞, 不整脈, 突然死

先天性QT延長症候群は遺伝子異常によって起こるイオンチャネル病であり、失神や突然死を誘発するTorsade de Pointes(TdP)を引き起こす。現在のところ約13の遺伝子異常が知られ、75%は1-3型に分類される(遺伝子異常が判明している中では90%)。1型に対する有効な治療法はβブロッカーであるが、2、3型に対しては有効な治療法が未だ存在しない。またTdPは、主に運動が誘因となる1型に対して、2型は驚きなどの感情変化、3型は睡眠を含めた徐脈が誘因となり突然死予防が困難である。そのため、TdPの引き金となる心筋早期脱分極を抑制する治療法の確立が急務である。 今回、QT延長症候群2型、3型患者からiPS細胞を作成し、その心筋挙動や細胞内イオン動態を詳細に評価し新たな治療ターゲットを検討した。 iPS細胞から分化した心筋は、明らかに心筋活動電位時間がコントロールiPS細胞由来心筋と比べて延長していた。細胞内Ca動態を同時に観察すると、細胞内Ca濃度は心筋収縮様式ではなく細胞膜電位変化に正確に一致して変動することが判明した。また、QT延長症候群iPS細胞由来心筋で頻発した早期脱分極においても細胞内Ca濃度の変化が平行してみられた。この現象から細胞内Ca濃度の変化が活動電位時間や早期脱分極発生に深く関わっていると考え、細胞内Ca動態の調整を行ったところ、細胞内Ca変動を抑えることで心筋活動電位時間の短縮や早期脱分極の消失が有意に認めた。 以上の結果から、QT延長症候群2型、3型患者に対して心筋細胞内Ca濃度の安定化が突然死予防に有効である可能性が考えられた。 また上記結果に加え、iPS細胞を用いたQT延長症候群のhigh-throughput 診断法の開発や治療方針決定についても新しい知見が得られている。チャネル異常に即した患者個人個人レベルでの治療法決定や生活管理が可能となり、この結果がQT延長症候群患者の突然死を大きく抑制できると期待する。