The 56th Annual Meeting of Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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デジタルオーラル

肺循環・肺高血圧・呼吸器疾患

デジタルオーラル(II)58(P58)
肺循環・肺高血圧・呼吸器疾患1

指定討論者:岩朝 徹(国立循環器病研究センター 小児循環器内科)

[P58-1] ambrisentanからmacitentanへの薬剤変更が奏効した小児特発性肺動脈性肺高血圧症の一例

井田 紘人, 中川 良, 中野 克俊, 浦田 晋, 朝海 廣子, 松井 彦郎, 犬塚 亮 (東京大学医学部附属病院小児科)

Keywords:肺動脈性肺高血圧症, エンドセリン受容体拮抗薬, 心臓カテーテル検査

【背景】小児の特発性肺動脈性肺高血圧症(iPAH)治療における確立されたエビデンスは乏しく, 今日では成人に準じた薬剤治療が試みられている. 近年, 組織移行性と親和性が高いエンドセリン受容体拮抗薬であるmacitentanの肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対する有効性が示されつつあり, 小児への適用が検討され得る. 【症例】4歳8ヶ月男児. 生来健康であったが, 4歳3ヶ月頃から活動量の低下を認め, 健診で心雑音を指摘された. 心臓超音波検査では右心系の拡大を認め, 三尖弁収縮期圧較差(TRPG) 109mmHgと高値であった. また, 脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は1113(ng/L)と高値であり, WHO機能分類は3, 6分間歩行テストでの歩行距離は220mと高リスクであった. 心臓カテーテル検査では平均肺動脈圧(mPAP) 92mmHg, 肺/体血圧比(mPAP/mSAP) 1.12, 肺/体血管抵抗比(Rp/Rs) 1.15と高値であった. 血液検査では肺高血圧の原因となる他の疾患は否定的であったことからiPAHと診断し, 急性肺血管反応性試験に不応であったことからtadalafilとambrisentanによる2剤併用療法を開始した. 治療開始から4ヶ月後の評価ではmPAP/mSAP 1.03, Rp/Rs 1.1と改善に乏しく, ambrisentanをmacitentanに変更したところ, その4ヶ月後にはTRPG 65mmHg, BNP 18.4(ng/L)と減少し, またmPAP/mSAP 0.678, Rp/Rs 0.619と改善を認めた. WHO機能分類は2-3, 6分間歩行テストは363mとなり, その後も同薬剤による治療を継続している. 【考察】本症例ではambrisentanからmacitentanへ薬剤を変更したことで臨床所見の改善, 低リスク状態への移行が得られた. 成人PAH治療に準じれば, 2剤併用療法にプロスタサイクリン製剤の追加使用も考慮されるが, 吸入回数が多いなどコンプライアンスの観点から小児への導入が困難な可能性がある. 小児においてmacitentanの有効性は確立されていないが, 本症例の経過からはその有効性が期待され, 今後の検証が待たれる.