The 56th Annual Meeting of Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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デジタルオーラル

肺循環・肺高血圧・呼吸器疾患

デジタルオーラル(II)60(P60)
肺循環・肺高血圧・呼吸器疾患3

指定討論者:柴田 映道(慶應義塾大学医学部 小児科)

[P60-3] 胸郭内腫瘍を合併したBMP9遺伝子のナンセンス変異を有する遺伝性肺動脈性肺高血圧症の女児例

石井 卓1, 下山 輝義1, 長島 彩子1, 渡邉 友博1, 細川 奨1, 土井 庄三郎2 (1.東京医科歯科大学 小児科, 2.国立病院機構 災害医療センター 小児科)

Keywords:遺伝性肺動脈性肺高血圧, BMP9, 胸郭内腫瘤

【はじめに】肺動脈性肺高血圧症PAHの原因遺伝子としてGDF2(BMP9)が報告されているが臨床像の詳細は明らかになっていない。【症例】13歳、女性。家族歴、既往歴に特記すべきことなし。8歳時から労作時呼吸困難を自覚し11歳時に二度の失神を認めた。精査の結果、PAHを認め、遺伝子検査でGDF2(BMP9)のナンセンス変異を認めたことから遺伝性肺動脈性肺高血圧症HPAHの診断となった。診断時の心臓カテーテル検査の結果は、平均肺動脈圧=72mmHg、mean Pp/Ps=1.03、肺血管抵抗係数=34.2WU・m2であった。内服3剤(selexipag、riociguat、macitentan)によるupfront combination therapyを開始したが、治療効果が不十分であったため診断後5か月時からepoprostenolの持続静注を開始した。治療開始後1年半の時点でepoprostenolは55ng/kg/minまで増量したが、肺動脈圧(平均圧=58mmHg、mean Pp/Ps=0.85)、肺血管抵抗係数(9.8WU・m2)は依然として高い状態が続いている。加えて、経過中にfollowで行ったCTで胸郭内(椎骨と右気管支の間)に淡い造影効果を伴う腫瘤(水平断で25mm、冠状断で60mm)を認めた。診断時のCTでは明らかな腫瘤は確認できず、経過中に増大したと考えられた。他の画像所見とその後の経過から悪性腫瘍は否定的であり、現時点では無治療で経過観察中である。児の状態と腫瘤の部位から生検はリスクが高いと考え行えていないが、画像診断上はlymphangiomaを最も疑っている。【考察】BMP9の遺伝子変異によるHPAHは症例が少ないため臨床像は明らかになっていないが、発症機序から考えると他のHPAHに比べて重症となりうる。また、BMP9はリンパ管や血管の形成にも関与しており、その異常が本症例における胸郭内腫瘤の合併に繋がっている可能性もある。【結語】BMP9の変異をもつHPAHでは重症な経過をたどる可能性を念頭におくとともに、肺血管病変以外の合併症にも注意する必要がある。