[P26-4] 閉塞性肥大型心筋症術後の心房頻拍に高用量β遮断薬が有効であったNoonan症候群の一例
Keywords:Noonan症候群, RAF1遺伝子変異, 薬物血中濃度
【背景】RAS/MARKシグナル伝達経路の調節異常を引き起こすNoonan症候群(NS)の遺伝子変異(KRAS, SOS1, PTPN11, RAF1)が同定され、細胞の増殖、分化、代謝に関連する。RAF1遺伝子変異は肥大型心筋症(HCM)を高頻度に合併するという臨床的特徴を持つことは知られているが、薬物代謝に関する詳細な報告はほとんどない。今回我々は、RAF1遺伝子変異を伴ったHOCM術後の心房頻拍(AT)に対して薬物血中濃度をモニタリングしながら高用量β遮断薬を使用した一例を報告する。【症例】症例は8歳、男児。特徴的な顔貌所見、体型、心合併症、遺伝子検査(RAF1遺伝子変異)からNSと診断された。4歳頃より左室流出路狭窄に対して、β遮断薬に加えNaチャネル遮断薬にて加療されたが、6歳には左室流出路狭窄の増悪(LVOT Vmax=5.0m/s)を認め、心臓カテーテル検査でLV-aAo=70mmHgであり当院転院となる。当院でMorrow手術を施行し、術後LVOT(Vmax=2.0m/s)と改善を認めた。術後難治性のATを認め、少量のpropranololから漸増し、3群薬を併用するもコントロールできず、propranololの薬物血中濃度をモニタリングし、高用量propranolol(10mg/kg/day)内服で薬物血中濃度316 ng/mlとなり、不整脈が消失した。【考察】本症例はRAF1遺伝子のミスセンス変異(Ex7, c.770C>T, p.S257L, de novo)を認めた。S257LはRAF1遺伝子のCR2領域に位置する。CR2領域の2リン酸化によりextracellular single-regulated kinase(ERK)を調節するscaffloding proteinである14-3-3蛋白は、CR2領域に変異を認めるとリン酸化調節ができずERKが活性化され、核内のシグナル伝達活性により薬物代謝が亢進される。本症例では高用量β遮断薬使用でようやく有効血中濃度200ng/mlに達した。【結論】薬物血中濃度をモニタリングすることで、RAF1遺伝子変異を認めるNSに対して、β遮断薬の有効血中濃度に達するためには高用量必要であることが明らかとなった。