[P27-5] 未診断で救命しえなかった家族性拡張型心筋症の一例
キーワード:拡張型心筋症, ショック, 患者教育
【背景】拡張型心筋症は5年生存率76%とされ、本邦における心臓移植例の8割以上を占める予後不良の心疾患である。近年、治療法の発展により介入の選択肢が増え、より一層早期診断が重要となっている。【症例】生後1か月19日の女児、周産期および一か月健診で異常の指摘はなかった。受診当日まで普段通り過ごしていたが、突然の5分間の全身性間代性痙攣を主訴に救急受診された。体温35.9度、脈拍数150回/分、血圧測定不能、呼吸数35回/分、SpO2 80%(リザーバーマスク酸素10L/分)で不穏、陥没呼吸、口唇チアノーゼおよび末梢冷感を認めた。当初は敗血症性ショックを疑い補液と抗生剤を開始、挿管の上人工呼吸管理とし感染巣の検索を行った。胸部写真で心拡大がみられたため心エコーを施行し心筋の菲薄化と左心室拡大、収縮能低下(LVEF=0.20~0.30)を認めた。改めて家族歴を聴取すると父より「自分が拡張型心筋症だが、遺伝したり赤ちゃんでも発症することはあるのか。」との発言があった。画像所見と家族歴から拡張型心筋症による心原性ショックと判断しエピネフリン持続投与及びミルリノンを開始したが、その後患児は心拍数20~30回/分の徐脈となり心肺蘇生術を施行した。一旦心拍数90~100分/回まで自己心拍再開し高次施設に搬送でき、最終的に体外循環まで使用したが全身状態不良で翌日に永眠された。【考察】拡張型心筋症は、18歳未満の有病率が1.13例/10万人と比較的稀な病態であるが、約2~3割が家族性とされ、同一家系内でも表現型が異なる例がある。本症例では拡張型心筋症を持つ父が、家族性を伴いうることや小児期に発症しうることを知らなかったため、本児の妊娠・出産にあたり循環の評価をされる機会がなく、突然の心原性ショックという形で発症し救命し得なかった。本症例のような最悪の経過を避けるために、拡張型心筋症の診療に当たっては遺伝カウンセリングを含めた適切な病態の説明と理解が求められる。