The 58th Annual Meeting of Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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シンポジウム

シンポジウム15(II-SY15)
テイラーメイド医療から創薬まで~生物工学の発展と小児循環器領域への応用~

Fri. Jul 22, 2022 8:30 AM - 10:00 AM 第4会場 (中ホールA)

座長:古道 一樹(慶應義塾大学医学部 小児科学教室 小児科)
座長:横山 詩子(東京医科大学 細胞生理学分野)

[II-SY15-01] I型アンジオテンシンII受容体/βアレスチン経路を活性化する小児心不全治療薬の開発

山田 充彦 (信州大学 医学部 分子薬理学教室)

Keywords:小児心不全, AT1受容体, βアレスチン

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAS)は、成人慢性心不全では病態の悪循環の中心にあるので、I型アンジオテンシンII受容体(AT1R)阻害薬(ARB)が生命予後改善効果を発揮する。このRASの病的作用のほとんどは、AT1Rに共役する「G蛋白質」を介して生じる。一方血漿レニン活性は、出生時には成人値の≧10倍と高値であり、30歳頃までに徐々に成人値まで低下する。このことは、小児、特に新生児・乳児ではRASが生理的に重要であることを示唆している。事実、RAS系ノックアウトマウスは正常に誕生するが、周産期に拡張型心筋症・腎不全などを呈し高い死亡率を示す。最近我々は、このRASの生理的作用のほとんどが、AT1Rに共役する「βアレスチン」を介して生じることを見出した。具体的には、新生児・乳児のマウス心臓では、この経路の刺激は細胞膜のL型Ca2+チャネル活性を高めて陽性変力作用を生じる。この反応は、胎児から新生児の形質を持つヒトiPS細胞由来心筋細胞でも保存されている。この経路は、心拍数・不整脈・心筋酸素消費量・活性酸素産生増加を伴わずに強心作用を発揮する。TRV027は、AT1Rに結合するとβアレスチン経路は活性化するが、Gタンパク質経路を抑制する「βアレスチンバイアスアゴニスト(BBA)」である。TRV027は、ヒト先天性拡張型心筋症モデルマウスのホモ接合体の生命予後を有意に改善し、野生型に何ら毒性を示さなかった。一方、AT1Rを介してβアレスチン・G蛋白質双方を抑制するARBは、ホモ接合体の生命予後を改善せず、野生型同腹仔の~60%を離乳前に殺傷した。つまり、AT1R/βアレスチン経路の刺激は小児心不全治療に有効であるが、その抑制は幼若個体には危険である可能性が示唆された。したがって、我々は離乳前小児の心不全治療には、ARBではなくBBAを使用すべきではないかと考えている。