[II-SY15-04] 胎児心臓発生過程への薬物・栄養学的介入の可能性
Keywords:心臓発生, 心臓前駆細胞, 予防医学
近年の集学的治療の発展により、先天性心疾患の予後は改善されつつある。一方で、重篤な心臓流出路異常や、心筋病変を合併する患者の中には、修復手術が不可能な生命予後不良例や、術後遠隔期合併症のために、QOLの大幅な低下に苦しむ例が数多く存在する。心筋および血管の再生医療応用が期待されるが、未だ有効な治療法は確立されていない。 胎生期から発症する重篤な心筋病変として、左室心筋緻密化障害が知られている。この病変の先天的な発症原因として、胎児期の心筋発生過程の停止が考えられている。胎児心筋の細胞周期が左室形態に与える影響は、先天性の心筋構築ならびに重篤な心室形成障害を伴う先天性心疾患の発症メカニズムの解明につながる可能性が期待される。一例として、心臓転写因子TBX5の遺伝子異常を病因とした左室心筋緻密化障害の発症機序と、その発生過程への介入の可能性を紹介する。 一方で重篤な心臓流出路異常には、二種類の心臓前駆細胞、心臓神経堤細胞および二次心臓領域細胞の発生異常が関与することが知られている。近年、葉酸の摂取量の増加が、心臓流出路異常の発症頻度を下げたという大規模な統計解析が報告された。葉酸はメチル基を供給する基質であり、心臓前駆細胞のepigenetic環境を変化させ、機能や分化に対して影響する可能性があるが、詳細な作用機序は未知である。心臓前駆細胞の一つである二次心臓領域発生異常により、総動脈管遺残を発症するTbx1発現低下マウスを用いて、葉酸が心臓幹細胞の機能維持に貢献し、心臓表現型を改善するという仮説を検証した結果、妊娠中に葉酸を投与したTbx1発現低下マウスは、心臓流出路異常が軽症化することが確認された。その後の解析により明らかになりつつある葉酸の心臓前駆細胞機能に与える影響と、そのメカニズムに関する知見に基づく、先天性心疾患の予防医学に通じる新たな治療戦略を紹介する。