The 58th Annual Meeting of Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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シンポジウム

シンポジウム18(II-SY18)
COVID-19 pandemicを踏まえ、改めて川崎病の原因を考察する

Fri. Jul 22, 2022 8:30 AM - 10:00 AM 第5会場 (中ホールB)

座長:小林 徹(国立成育医療研究センター データサイエンス部門)
座長:濱田 洋通(千葉大学大学院 医学研究院小児病態学)

[II-SY18-03] 免疫グロブリン重鎖遺伝子のバリアントとの関連からの川崎病の病因への洞察

尾内 善広 (千葉大学 大学院医学研究院 公衆衛生学)

Keywords:免疫グロブリン重鎖遺伝子, 新型コロナウィルス, 中和抗体

我々は川崎病の発症や重症化リスクを規定する遺伝要因の情報が、原因の究明や新規治療法の開発に結びつくことを期待し、集団遺伝学的なアプローチでの研究に取り組んでいる。最近我々は韓国、台湾の研究者とゲノムワイド関連解析データのメタ解析により、14番染色体長腕の免疫グロブリン重鎖(IGH)遺伝子領域内に、新規の川崎病罹患感受性遺伝子を特定し、報告した。このゲノム領域には造血幹細胞がB細胞に分化する過程でのIGH遺伝子再構成に関与する、可変領域遺伝子群(IGHV, IGHD, IGHJ)および定常領域遺伝子群(IGHCμ ~ IGHCα2)が縦列に並び存在し、川崎病の発症リスクとの最も強い関連は、IGHV遺伝子の一つ、IGHV3-66内に存在する一塩基バリアント(rs6423677 A/C)に観察された。興味深いことに、IGHV3-66は、そのパラログであるIGHV3-53とともに、SARS-CoV-2のスパイクタンパクがヒト細胞上の受容体となるACE2に結合する部位(receptor binding domain; RBD)を認識する中和抗体において最も高頻度に認められ、かつ生殖細胞系列の配列を保ったまま関わることが複数の研究から報告されており、そのことからSARS-CoV-2に対する免疫応答およびCOVID-19ワクチンの有効性に中心的な役割を担うと考えられている分子であった。さらにrs6423677の遺伝型の末梢血B細胞のIGHレパトアへの影響に関する検討から、Cアレルの数と、IGH転写物中におけるIGHV3-66の利用頻度との間に正の相関があることが明らかとなった。川崎病発症リスクはCアレルと関連することから、IGHV3-66を重鎖の構成に含む免疫グロブリンないし、それを発現するB細胞が多く存在することが川崎病の病態に促進的な意義を持つことを意味し、また、川崎病との症状のオーバラップが注目されるMIS-C/PIMSがSARS-CoV-2によって生じ、かつIVIGが効果を示すことを考慮すると、川崎病の病因やIVIGの有効性メカニズムの観点から示唆に富む知見であった。