[II-SY18-02] 川崎病の原因:免疫学の立場から
Keywords:病原体関連分子パターン, ダメージ関連分子パターン, 炎症誘発性細胞死
我々は微生物そのものでなく微生物由来の病原体関連分子パターン PAMPsと自己細胞からのダメージ関連分子パターン DAMPsという特定の分子パターンが、パターン認識受容体等に作用し、冠動脈炎を惹起するという概念を提唱している。実際抗DAMP抗体により細菌や真菌などPAMPsの種類に関係なく川崎病マウスモデルで血管炎の発症を抑制している。
SARS-CoV-2 感染症では稀であるが再現性良く川崎病症状を呈し、パイロトーシスとDAMPsの放出が報告されている。エルシニア感染症では12~35%に川崎病症状を呈し、マクロファージにパイロトーシスを誘導する。また火傷では主なタイプの細胞死はネクローシスで大量のDAMPsが放出される。原因微生物が多様にもかかわらず川崎病という共通の症状を呈するのは、微生物等により惹起される炎症誘発性細胞死-DAMPsがそのメカニズムとして考えられる。川崎病では原因微生物が複数でも、患者血中の抗DAMPs抗体により多様な微生物による再発が抑制されている可能性がある。
2020年4~5月のCOVID-19緊急事態宣言下、その後の6~12月で飛沫・接触感染による呼吸器感染の著減は持続したが川崎病は半分以下には減少しなかった。一方川崎病が極めて広域で流行する事実や風と関連するという報告がみられることから、川崎病の主要感染経路として空気媒介伝播が関与している可能性がある。
ヒトは感染症からPAMPsだけを生体内で検出した場合、その病原体はそれほど危険ではないと判定し強い免疫反応を示さない。しかしPAMPsと細胞・組織傷害から放出されるDAMPsを同時に検出した場合、生体にとって脅威とみなし強い免疫反応を惹起する(2021 Nat Rev Immunol)。DAMPsは血管内皮細胞等の炎症誘発性細胞死を惹起するという報告があるので、炎症誘発性細胞死-DAMPsという“血管炎症増幅ループ”は川崎病の発症に重要な役割を果たしている可能性があり、今後のさらなる研究が必要である。