[III-OR28-01] 先天性心疾患における肺静脈狭窄の組織学的検討
キーワード:肺静脈狭窄症, EP4, 内膜肥厚
【背景】肺静脈狭窄症(PVO)は,sutureless法などの新しい手術法やカテーテル治療の導入,化学療法の試用により成績の向上が認められているが,根治へ向けた治療法が確立されていない疾患群である.病理学的な検討は少数例の報告に限られ,肺静脈での内膜肥厚形成の機序は不明である.【目的】肺静脈狭窄症における内膜肥厚のメカニズムを組織学的に検討すること.【方法】2014年4月から,2019年6月までに静岡県立こども病院にてPVOに対して外科的修復術を施行した15症例(TAPVC修復術後PVO 3例,Asplenia + TAPVC修復術後PVO 3例,単心室形態 + PVO術後PVO 4例,PAPVC + PVO 1例,HLHS + PVO 2例,VSD + PVO 2例;組織採取時平均月齢 32.2カ月)において術中採取された心房を含む肺静脈組織を解析した.Alcian Blue染色,Hematoxylin Eosin染色,Masson Trichrome染色,特異染色によるヒアルロン酸の検出,および免疫組織染色(プロスタグランディンE2受容体EP4,versican)を行った.また,IRES-nlsLacZを挿入したEP4レポーターマウスを作製し,X-gal染色によりEP4発現を評価した.【結果】肺静脈肥厚組織の血管内腔側から中央部には酸性ムコ多糖を多く認め,中でもヒアルロン酸を多く含むことが確認された.特に中央部は平滑筋細胞の細胞数が多く,EP4発現が高度に認められた.酸性ムコ多糖であるversicanの発現は顕著ではなかった.一方で,外側(心筋側)には平滑筋細胞が比較的疎に存在しており,膠原線維を多く含む傾向がみられた.これらの組織学的特徴は,手術後のPVOと先天性PVOに共通して認められた.EP4レポーターマウスの解析より,EP4は左心房―肺静脈に発現していることが示された.【考察・結語】PVOの内膜肥厚は,EP4シグナルを介した細胞外基質の産生や平滑筋細胞の遊走,増殖,といった動脈管閉鎖における内膜肥厚の血管リモデリングに類似したメカニズムが関与している可能性が示唆された.