[I-OR11-02] 養育環境が原因と考えられ、肺高血圧を合併した脚気心の一例
キーワード:脚気, 肺高血圧, 高心拍出性心不全
【背景】現代の高所得国においても小児脚気(Vitamin B1欠乏)の報告は散見され2000年から2020年にかけての報告数は本邦がアメリカに次いで2番目に多い. 養育環境が原因と考えられ肺高血圧を合併した脚気心の症例を経験したため報告する.【症例】8歳女児,入院10日前に全身浮腫と微熱,歩行困難が出現した.階段から転落したため救急要請,前医搬送された.活気不良と全身浮腫から精査の結果心拡大と両側胸水貯留があり当院へ後送された.全身の浮腫が著明で活気に乏しく,血液検査でpH 7.45, Lac 31 mg/dl, Alb 3.6 g/dl, NT-pro BNP 11000 pg/ml,胸部レントゲンで心拡大(CTR 59%),肺血管陰影増強あり,エコーで右心系の拡大,RVFAC 25%, TR moderate, Vp 3.9m/s, 短軸像で心室中隔平坦で肺高血圧,右心不全が示唆された.LV motionはhyperdynamicであった。利尿薬とネーザルハイフローによる心不全管理への反応に乏しく,入院翌日に歩行障害に対する追加診察から深部腱反射障害が発覚し脚気を想起して,ビタミンB1の投与を開始したところ速やかに尿量が得られ投与開始48時間で右心機能の著明な改善を認めた.後日判明したビタミンB1の値は21 ng/ml(正常値 24-66 ng/ml)だった。家族背景として養育環境に問題があり,おかずを取らない極端な偏食であり,発症前後で不登校となり給食も食べることができていなかった. 【考察】脚気心は高心拍出性心不全を呈することが多いが,肺高血圧を合併することもある.2015年の欧州心臓病学会の肺高血圧ガイドラインにおいて肺高血圧の鑑別疾患に脚気は入っていない.利尿薬はビタミンB1をより枯渇させるため病態を悪化させうる.養育環境に問題があり,右心不全と肺高血圧で発症し,Vitamin B1投与により速やかに血行動態の改善をみた脚気心の1例を経験した.原因不明の心不全、肺高血圧の鑑別に脚気を想起することが重要である.