第59回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム2(I-SY02)
肺高血圧を伴う先天性心疾患への肺血管拡張療法

2023年7月6日(木) 13:30 〜 15:00 第4会場 (G303)

座長:高月 晋一(東邦大学医療センター大森病院小児科), 座長:石田 秀和(大阪大学大学院医学系研究科小児科学)

[I-SY02-05] Fontan術後症例における肺血管拡張剤

早渕 康信 (徳島大学病院 小児科)

キーワード:Fontan手術, 肺血管拡張剤, 肺血管リモデリング

Fontan術後遠隔期における循環の破綻、Failed Fontanの原因としては、心機能障害の進行に加え、肺血管抵抗の上昇をもたらす不適応な肺血管リモデリングが重要な役割を果たす。このような病態を予防・治療するために肺血管拡張剤を使用して肺循環動態を改善させて中心静脈圧を低下させることは理にかなっており、一般的に支持されている。しかし、現在のところ全てのFontan術後例に肺血管拡張剤をルーチンに使用することを支持する証拠は無く、そのような治療が有益と考えられるサブグループを定義するデータも認められない。Fontan術後患者における肺血管拡張剤の有効性と安全性を評価した試験は散見されるが、肺血管抵抗、心機能、NYHA機能分類、BNP、運動能力、6MWD、死亡率などに関して有益であるという報告もあれば、有意な改善結果は得られなかったとする報告もある。これらの結果から考えられることは肺血管拡張剤は特定の患者における短期的な循環のサポートには有益性を示唆するという程度であろう。肺血管拡張療剤は内皮由来の血管弛緩因子を介して肺動脈性肺高血圧(PAH)を緩和することを目的として承認されている。肺血管平滑筋細胞を弛緩させ、血管拡張・肺血管抵抗を減少させる。これは中膜肥厚、平滑筋細胞増殖を呈するPAHでは合理的である。しかし、長期にわたるFontan循環・非拍動性肺循環の肺血管リモデリングはPAHとは著しく異なり、血管平滑筋細胞の減少を伴う中膜の萎縮と進行性の内膜線維性肥厚が認められる。これらの観察はPAHにおける肺血管拡張療剤の有益な効果をFontan循環を有する症例にも適用できるという概念に疑問を投げかけるものである。Fontan循環における肺血管拡張剤の有益性を十分に評価するためには大規模な前向き無作為化対照臨床試験の必要性があると考えられる。