[III-JS-02] FALDの病態:肝線維化進展と腫瘍形成の機序
Keywords:FALD, S1P, CD44
Fontan術を施行された後に10~20年の経過で約50%がうっ血肝から肝硬変に進展し、中には肝癌を発症する症例がある(FALD, Fontan-associated liver disease)。肝硬変・肝がん非発症例の予後は良好であるが、一旦肝がんを発症すると1年生存率は約50%に低下する。FALD肝病変の進行には、うっ血肝による類洞への圧負荷と心臓手術後の慢性的低酸素状態が寄与している。FALD以外にも、Budd-Chiari症候群、重度右心不全も同様の機序で慢性うっ血が生じ、一部は肝硬変へ進展する。慢性うっ血肝の病態は多彩であり、肝線維化が急速に進行する症例と緩徐な症例の判別、発がんする症例と発がんしない症例の判別は、患者の生命予後に直結するが、その診断方法や治療法は確立されていない。私たちはFALDモデルとして慢性うっ血肝を来すマウスを作製し、肝線維化と発がん機序の解明を目的に研究を進めている。その結果、うっ血肝の病態では、1)肝臓の辺縁側優位にうっ血/線維化/ 腫瘍形成が生じること、2)門脈LPSにより毛細血管化した肝類洞壁内皮細胞由来の脂質メディエーターSphingosine-1-phosphate(S1P)がS1P受容体を介してうっ血性肝癌を誘導すること、3)腸管殺菌(抗生剤投与)によって肝線維化と腫瘍形成が抑制されること、4)FALD患者血中で増加するCD44が肝線維化に関与し、Biomarkerとなる可能性があることを明らかにした。本シンポジウムでは、国立国際医療研究センターFALD研究班と厚労省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班で合同実施したFALDの全国疫学調査結果と、うっ血肝モデルマウスの解析によるFALDの病態解明と治療戦略の開発に向けた成果を報告する。