[III-OR25-01] iPS細胞技術を利用した左室心筋緻密化障害の表現型を決定する分子機構の解明
Keywords:左室緻密化障害, 心筋症, iPS細胞
[背景]左室心筋緻密化障害(LVNC)は、左心室の拡張障害や収縮障害、不整脈、血栓塞栓症を発症し、心不全や突然死の主因となる。近年、サルコメア遺伝子変異が拡張型心筋症や肥大型心筋症に加え、LVNCを発症させることが明らかになってきたが、その機序は不明である。[目的]LVNC特異的変異を導入したiPS細胞由来心筋細胞(iPSC-CM)の表現型・遺伝子発現を解析し、LVNCの遺伝子型-表現型の相関を制御する機序を明らかにする。[方法]健常コントロールiPS細胞株にCRISPR/Cas9ゲノム編集技術にて、LVNCの病因変異の報告があるMYH7遺伝子変異を導入し、心筋細胞に分化させた。この心筋細胞の構造、機能、遺伝子発現プロファイルを、免疫染色、電子顕微鏡、Ca2+imaging、patch clamp、RNA-sequenceを用いて解析した。[結果]LVNC表現型特異的なMYH7変異(c.818+1G>A)を導入したiPSC-CM(LVNC iPSC-CM)のMYH7発現は有意に低下しており、MYH7変異のナンセンス変異依存mRNA分解機構の関与が疑われた。LVNC iPSC-CMのサルコメア構造ではミオシンフィラメントの断裂が認められた。またLVNC iPSC-CMの増殖能は亢進し、細胞内Ca2+ハンドリング異常が認められた。これらは胎生期心筋細胞発生における成熟停止を示唆する所見と考えられた。さらにRNA-sequenceで病因となる上流調節因子解析を行い、HIF1Aパスウェイ活性化が特定された。[考察・結論]LVNC iPSC-CMsは、増殖能亢進、サルコメア構造異常、サルコメア遺伝子発現低下という未熟心筋に特徴的な所見を示した。胎児心筋における低酸素環境下では、MYH7の発現が増加し、HIF1Aシグナルが活性化することが知られている。 LVNC特異的なMYH7変異(c.818+1G>A)を有する症例では、MYH7の発現低下を代償する制御機構として、HIF1Aシグナルの亢進により胎児期の低酸素環境下と同様の遺伝子発現が誘導されるため、心筋構築の成熟が障害され、LVNC表現型が形成される可能性が示唆された。