第60回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム4(I-SY4)
‘‘小児領域発’’肺高血圧研究の最前線

2024年7月11日(木) 09:40 〜 11:10 第8会場・JCK-AP Forum (5F 502+503)

座長:澤田 博文(三重大学医学部附属病院 小児・AYAがんトータルケアセンター)
座長:永井 礼子(北海道大学病院 小児科)

[I-SY4-6] ラットPHの右室機能不全におけるBmpr2変異の役割

大矢 和伸, 澤田 博文, 三谷 義英, 武岡 真美, 淀谷 典子, 大橋 啓之, 平山 雅浩 (三重大学大学院 医学系研究科 小児科学)

キーワード:PAH, Bmpr2, RV function

【背景】BMPR2変異は肺動脈性肺高血圧(PAH)の主要な遺伝的リスク因子であり、疾患重症度や生命予後の悪化と関連する。BMPR2変異保因者における臨床像の悪化は肺血管病変によるとされてきたが、近年の報告ではBMPR2変異はPAHとは独立して右室機能を低下させることが示唆されている。しかしBMPR2変異保因者における右室機能障害の機序は不明である。【仮説】Bmpr2変異を有するラットは野生型ラットに比べて右室後負荷とは独立して右室機能が低下しており、右室心筋線維化が関与している。【方法】CRISPR/Cas9ゲノム編集で生成したBmpr2変異ラットおよび野生型同腹仔にてモノクロタリン(MCT)-PHモデルを作成し、無治療下(n=89)とtadalafil治療下(n=28)のそれぞれで、PH進行に伴う右室機能の経時的な変化を心エコーとカテーテル検査で評価した。【結果】無治療の場合、疾患早期段階(MCT投与後21日)では両群間で右室機能に有意差はなかったが、疾患後期段階(23-25日)ではRVSPが同等にも関わらず、野生型同腹仔に比べてBmpr2変異ラットはRV-fractional area change (FAC)とcardiac index (CI)が有意に低かった(RV-FAC: 41.0±8.3 vs 27.5±11.5%, p<.0001; CI: 413±114 vs 263±93ml/min/kg, p<.0001)。一方でtotal pulmonary resistance index (TPRI)はBmpr2変異ラットで有意に高かった(0.16±0.06 vs 0.27±0.09mmHg/ml/min/kg, p<.0001)。Tadalafil治療で生存期間を延長させた場合、疾患後期段階(28-30日)ではRVSPおよびTPRIが同等にも関わらず、Bmpr2変異ラットはRV-FACが有意に低く(34.4±8.2 vs 23.6±5.4%, p=.0008)、右室心筋線維化の範囲がより広かった(3.7±2.5 vs 6.6±2.7%, p=0.04)。【結論】PDE5i治療で生存期間を延長させたBmpr2変異ラットは、後負荷と独立した右室機能障害と進行性の右室心筋線維化を伴う。これらの所見は、PAH治療下での右室機能と線維化に対する補助的戦略を正当化するものである。