[II-PSY3-2] 小児気道外科治療の最前線
Keywords:先天性気管狭窄症, シミュレーション手術, 流体力学的解析
先天性気管狭窄症(congenital tracheal stenosis, CTS)は先天的に気管の一部が膜様部を欠いた完全気管軟骨輪の形態で狭窄を呈し、生後早期から乳幼児期にかけて気道閉塞症状を呈する疾患で、重症例では窒息のリスクもあるため外科手術の適応となる。外科手術は狭窄部の中程で気管を切断し、頭側気管の後壁、尾側気管の前壁に切開を入れ、それをスライドさせて前後に重ね合わせて縫合するスライド気管形成術が一般的である。CTSの約8割に何らかの心血管奇形が合併する。気道閉塞症状と循環動態の重症度により同時修復と分割手術の判断や手術時期などを関連各科で協議し、栄養状態や体格、気道感染の制御状態なども考慮して治療全体の方針を立てる。原則、気道の問題が大きく呼吸が不安定な症例ではスライド気管形成を先行させ、循環が不安定な症例では心臓手術を先行させる。気管分岐異常や片肺無形成・低形成症例では気管形成における切断部位や切開のデザインに工夫を要する症例も多く、CTデータを用いて3Dプリンターにより作成した実物大の3D気管モデルを用いてシミュレーション手術をすることもある。また、3D気管モデルを用いて流体力学的解析を行うことで、術前の気道抵抗を数値化して重症度を症例間で比較したり、同一症例における術前術後の気流の変化を解析することで手術の効果判定をすることができる。さらに、シミュレーション手術を複数の異なる形成デザインで行った場合に流体力学的解析を組み合わせることによって最適な形成デザインを事前にシミュレーションすることも可能となる。 CTSに対するスライド気管形成術は高難度で高リスクの手術であり、治療全体の組み立てと的確な形成デザインが重要である。自験例から示唆に富む症例を交えながら気管狭窄症に対する気管形成術の実際を提示する。