[III-CSY4-4] AT1受容体/βアレスチン信号を利用した新規小児心不全治療薬の研究開発
キーワード:小児心不全治療薬, βアレスチンバイアスアゴニスト, レニン・アンジオテンシン系
レニン・アンジオテンシン系(RAS)は、生理活性物質アンジオテンシンIIとそのI型受容体(AT1R)を介して、多くの成人循環器・腎疾患を誘発する。一方、ヒトを含めた哺乳類の新生児・乳児期には、RASは個体の生命維持に重要な役割を果たし、血漿レニン活性は生涯で最高値を呈する。G蛋白質共役型受容体であるAT1Rは、成人での病的作用のほとんどをGq/11蛋白質を介して生じるが、小児における生理作用はβアレスチンを介して生じる。近年、AT1Rに結合するとGq/11蛋白質を抑制しながら、βアレスチンを活性化するβアレスチンバイアスアゴニストTRV027が開発された。TRV027は、離乳期までに~80%の個体が心不全死するヒト先天性拡張型心筋症モデルマウスの生命予後を有意に改善し、first-in-classの小児心不全治療薬となる可能性がある。しかしマウスでのTRV027の有効性は、その作用を仲介する心筋細胞内情報伝達因子の発達依存的変化により、誕生から離乳期の期間に限定される。そこでTRV027の臨床の応用にむけて、ヒトでも同様の発達依存的変化があるのかを調査することが重要であり、これが本課題研究の目的である。初年度は、まず既存の網羅的RNAseqデータベースを解析したところ、誕生後の心筋情報伝達因子の発現変化が、例外はあるもののマウスとヒトで概ね類似していることを確認した。そこでこれを実際のヒト心筋組織で確認するため、5小児検体と、5成人検体を得た。今後これら10検体で定量性RT-PCR解析を行い、各遺伝子の発現を定量化する予定である。さらにより効率的に小児検体を収集するため、本学会を通じて参加施設を全国公募した結果、大変有難いことに数十施設から本研究への参加可能との回答を得たので、次年度に向けて多施設共同研究を展開する予定である。