第60回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

一般口演

意欲的研究

一般口演27(III-OR27)
意欲的研究

2024年7月13日(土) 10:10 〜 11:10 第7会場 (4F 404-406)

座長:坂崎 尚徳(兵庫県立尼崎総合医療センター 小児科)
座長:浦田 晋(国立成育医療研究センター 循環器科)

[III-OR27-05] 小児拡張型心筋症における左室補助人工心臓装着後の左室機能回復:シングルセルRNAシークエンスによる関連因子の検討

久呉 洋介1, 木戸 高志1, 谷本 和紀1, 永島 利章1, 長谷川 然1, 渡邊 卓次1, 石井 良2, 石田 秀和2, 成田 淳2, 平 将生1, 宮川 繁1 (1.大阪大学 大学院 医学系研究科 心臓血管外科, 2.大阪大学 大学院 医学系研究科 小児科学)

キーワード:拡張型心筋症, 補助人工心臓, 心機能回復

【背景・目的】小児重症心不全治療においては、体外式左室補助人工心臓(LVAD)装着下での長期入院や、心移植後の免疫抑制薬の長期使用に関連する問題があり、新たな治療法が模索されている。一部の拡張型心筋症(DCM)患者では、LVAD植込み後に左室機能が回復・維持され、LVAD離脱に至る症例が報告されている。これが新しい心不全治療の足掛かりとなる可能性があるが、そのメカニズムは未解明である。本研究ではシングルセルRNAシークエンス(scRNA seq)を用いて、小児DCM患者におけるLVAD植え込み後の左室機能回復に影響する術前因子を細胞レベルで検討することを目的とした。【方法】当院で2013年から2123年にかけてBerlin Heart EXCOR(BHE)装着を行った小児DCM患者25例を対象とし、6ヶ月後にLVADサポートをoffした際に左室駆出率(LVEF)が20%以上改善した症例をRecovery群(R群)、改善しなかった症例をNon-Recovery群(NR群)とした。各群から3例ずつ計6例に対して、BHE装着時に採取した心尖部心筋組織を用いてscRNA seqを実施し、心筋細胞と線維芽細胞において発現変動遺伝子解析を行った。発現変動が見られた遺伝子に対して、全25例で血清学的・組織学的検証を行った。【結果】R群は10例、NR群は15例。BHE装着時の体重は6.3kgと9.9kg(p=0.049)、LVEFは23%と16.5%(p=0.61)。scRNA seqでは、心筋細胞ではR群でNPPBMYL7PCDH9などの発現上昇が認められ、KEGG Pathway解析ではTight JunctionやECM receptor pathwayのシグナル伝達経路が活性化していた。線維芽細胞ではR群で細胞外マトリクス構成蛋白の発現が上昇し、NR群ではGSLの発現上昇がみられた。血中BNP値はR群が有意に高値であり(2913 vs 1278 pg/ml, p<0.05)、組織学的評価では線維化率には差が認められなかった。【まとめ】心筋細胞のNPPB発現量とその産物である血中BNP値は、LVAD植え込み後に左室機能が回復するDCMのマーカーとなりうる可能性が示唆された。