09:15 〜 09:35
[スポーツ文化-B-02] eスポーツと既存スポーツの差異に関する一考察
ゲームの記号論と身体の存在論的位置づけから
元来スポーツは「身体的技術を競うゲーム」という観点で理解されることが多く、この意味で「eスポーツはスポーツではない」とする議論が散見される。だが、eスポーツにおいても、画面上の変化に身体運動によって瞬時に反応する能力や正確・精緻なコントローラーの操作技術など、高度な身体的技術が要求される。したがって、その有無はeスポーツと既存スポーツの差異の根拠とはなり得ない。本発表ではむしろ、身体をゲームが成立するためのメカニズムとの関係において捉え、eスポーツと既存スポーツの差異を、ゲームの記号論と身体の存在論的位置づけに焦点を当てて考察する。記号論の枠組みによれば、eスポーツを含むビデオゲームにおいて、画面上の映像やテキストといった「記号」が表象するのは、「虚構世界」と「ゲームのメカニズム」である。「虚構世界」はゲーム内で登場するキャラクター、アイテム、場所、舞台設定といった虚構的存在の総体である。「ゲームのメカニズム」はプレイヤーの行為の可能性や可能なゲームの状態を規定する仕組みの総体である。換言すれば、「虚構世界」と「ゲームのメカニズム」は画面上の記号が表象する二種類の「意味」と言える。一方、現実の物理空間で成立する既存スポーツにおいては、上記の虚構世界的意味は希薄であるが、ゲームのメカニズムは存在しており、これを表象するのは人間の身体や用具、施設といった物理的存在である。このような意味で、既存スポーツにおける身体は、ゲームのメカニズムが現実化するための一種の記号として機能していると言えるだろう。