[09方-ポ-14] 複雑ネットワークによる夏季オリンピックのリオ・東京大会における男子ハンドボール決勝の特徴抽出
本研究は、ハンドボールの試合において、選手が送球・受球するパスの系列(パス系列)に複雑ネットワーク解析を援用し、パス系列の統計的性質を明らかにすることを目的とした。 ハンドボールは、コート上で14名の選手で競技するが、戦術の根幹にスケールフルー性が存在する可能性が考えられる。 夏期オリンピック大会である2016年リオ大会(以下、リオ)と2021年東京大会(以下、東京)における、デンマーク(以下、DEN)とフランス(以下、FRA)による男子ハンドボールの決勝を解析対象の試合とした。 両決勝のチームごとに、パス系列の長さを三要因(2大会、2チーム、前・後半)分散分析し、次に選手(ノード)とパス(リンク)の出現に基づいて両対数を用いたべき則の解析をした。 その結果、DENにおいて東京(M±SD:8.3±5.5)よりもリオ(11.7±5.8)、リオにおいてFRA(8.3±5.1)よりもDEN(11.7±5.8)、両大会の前半においてFRA(8.0±5.1)よりもDEN(11.5±7.1)、DENにおいて後半(9.4±7.3)よりも前半(12.1±7.1)、のそれぞれのパス系列が長かった(大会とチーム:F(1,282)=8.73、チームと前・後半:F(1,282)=7.91、それぞれp<.01)。 また、べき乗の指数値は、実世界の現象を検討した他の研究で明らかにされてきたスケールフリー性を示す指数値と同程度であった(2.61±0.46;範囲:1.83-3.61)。 パス系列の長さの結果は、両大会でのDENのパス系列の変更に基づく戦術の変化を示している。また、べき則の結果は、パス系列におけるスケールフルリー性を示している。これらの結果は、パス系列の統計的性質を用いた複雑ネットワークの解析が、少人数でプレイするチームの戦術解析にも有効であり、各チームのパス系列の特性、試合中での変化、試合間での異同を明らかにできることを示唆している。