[03心-ポ-29] 自転車走行時に発生する眼振と視運動刺激による眼振の関係
人が自転車走行や車の運転といった高速な移動を行う際、正確な操縦には視覚情報が重要である。これらの移動行動では視運動性眼振(OKN: Optokinetic Nystagmus)と呼ばれる眼球運動が発生し、移動に伴う網膜上に映る像のズレを抑制するとされている。OKNは網膜中心窩に目標像を合わせる急速相と目標像を追従する緩徐相を繰り返す眼球運動であり、姿勢制御における役割が知られている。OKNは多くが室内実験の検討であり実環境での検討は少ない。そこで本研究では転車走行中に報告されたOKNに着目し、本研究ではバランスが求められる自転車走行と姿勢制御の役割をもつOKNの関係を明らかにすることを目的とした。 9名の参加者は自転車課題と視運動刺激課題を行い、課題中の眼球運動を頭部装着型アイトラッカーにより計測した。自転車課題では、シティサイクルに乗車し2つの幅のレーン(長さ: 26m、幅: 15cm、30cm) 内を3つの速度(低速、快適速度、高速)で走行するよう求めた。視運動刺激課題では、実験室でスクリーンの中央を10秒間注視させた。視運動刺激は空間周波数0.08cyc/degの白黒の縞刺激を3つの速度(15、25、35deg/s)で垂直・水平方向に移動させた。 実験の結果、9名中6名 (低速および快適速度のレーン幅15cm条件) にOKNが観察された。レーン幅15cmの低速および快適速度条件はバランスが要求されるためにOKNが発生したと考えられる。また、6名の低速と快適速度におけるOKNの振幅に正の相関 (r=.975、p=.001) がみられた。さらに視運動刺激との関連では、下方向の視運動刺激 (15deg/s) によるOKNの振幅と自転車課題 (幅:15cm) によるOKNの振幅の間に低速において正の相関傾向(r=.799、p=.056)、快適速度において正の相関(r=.880、p=.021)がみられた。下方向の視運動刺激と自転車走行中の網膜上における像の動きは上から下方向である。よって、ともに眼球の下転が緩徐相、上転が急速相というOKNが発生し、身体運動の有無に関わらず眼球運動の挙動に関連があることが示唆された。