[03心-ポ-38] 熟達化過程においてチームスポーツの選手はいかにして独自性を発揮しているのか
本研究の目的は、チームスポーツの選手が熟達化の過程でいかにして独自性を身につけ、発揮しているのか、について明らかにすることである。調査は、元プロサッカー選手1名を対象として半構造的インタビューにより実施した。データ分析は、大谷(2008)によるSCAT(Steps Coding and Theorization)に従って行われた。分析の結果、熟達化過程における独自性発揮のあり方について説明する主な概念として、「基礎的なスキルを徹底」、「模倣を通した自主練習」、「明確な課題意識」、「パフォーマンスによる評価」、「独自性の理解」、「協同による自己発揮」、「戦術と役割の認識」及び「結果志向によるプレースタイルの変化」が形成された。小学校時代のチーム練習は、「基礎的なスキルを徹底」するものであった。対象者は、基礎的なスキル練習をベースとして、自分が憧れる選手の「模倣を通した自主練習」をする中で、目指すプレースタイルを見つけ、「明確な課題意識」をもつようになった。チーム練習及び試合は、自身の課題が達成できているか否かについて「パフォーマンスによる評価」を行う場であった。そこで成功体験を蓄積する中で自身の得意なプレー、「独自性の理解」がなされていた。高校では、自分の得意なプレーをより発揮できるように仲間との連携を意識し、「協同による自己発揮」をしていた。強豪校から選手が集まる大学では、「戦術と役割の認識」が求められ、チームの規律を守りながら、独自性を発揮するようになった。明確な結果を出すことが求められるプロの段階では、「結果志向によるプレースタイルの変化」があり、チームの戦術に応じて柔軟にプレースタイルを選択するようになった。本研究の事例から、チームの競技レベルが高まる中で、他の選手との協同、戦術と役割の認識、結果志向の高まりというように選手の認識に変化があり、それによって独自性の発揮のされ方が変化することが示唆された。