[03心-ポ-55] 拡張現実下における大きさ-重さ錯覚
【背景・目的】視覚情報が質量推測の重要な情報源であることを示す錯覚現象に、大きさ-重さ錯覚がある(Size-Weight illusion:SWI)。本研究では、現実の環境にCGや仮想物を追加して、現実世界を拡張する技術である拡張現実(Augmented Reality:AR)を用いた実験操作により、物体を視認してから持ち上げるまでの様々な段階で、物体の見かけ上の大きさを変化させた。これにより SWI が物体を持ち上げる前のどの段階の視覚情報に基づき生起されるのかを検討した。
【方法】一般成人25名を対象とした。参加者は、ヘッドマウントディスプレイ内のAR映像の仮想物を見てから、実物体のハンドル部をつまんで持ち上げ、その物体の知覚された重さを絶対マグニチュード推定法にて回答した。仮想物のサイズは2条件(大きいサイズのL 条件、小さいサイズのS 条件)とした。仮想物のサイズ変更に関して、物体持ち上げ課題の試行中、変更しない条件(no-size-change条件)、および、持ち上げ動作の開始直前、開始直後、終了後のいずれかの時点で仮想物のサイズを変更する条件(size-change条件)を実施した。
【結果・考察】no-size-change条件において、S条件ではL条件に比べて重たく知覚された。このことは、ARを用いた視覚刺激に対してもSWIが生起することを示唆する。また、size-change条件において、仮想物のサイズが動作開始前にL条件からS条件へと切り替わる物体を持ち上げた場合、L条件のままの物体に比べて重たく知覚された。一方、動作開始直後や終了後にサイズ変更しても、物体は軽く知覚されなかった。これらの結果から、持ち上げ動作開始前の視覚情報に基づいてSWIは生起され、いったん動作を開始した後は、サイズ変更後のサイズに見合ったSWIが起こるわけでないと考えられる。